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[コメント] ストレンヂア 無皇刃譚(2007/日)

血に飢えた映画。スピーディかつ景気よく飛び散る鮮血の連続に、トランス状態。切れ味の良さが光る。細かい人間的な演技描写も抜かりなく、背景美術は繊細、長瀬の淡々とした低い呟き声も耳に馴染む。筋はお約束的だが。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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荒れ寺で、分銅の付いた鞭の使い手である刺客・金亥と闘うシーンは、倒れた侍の向こう側から突如として彼が現れた途端に鳴り響く音楽の、シンプルな力強さと速度感や、狭い寺をブチ破りながら鞭が舞うさま、そして名無しが抜かぬままの刀の先で相手の喉元を突くという、斬るよりも却って攻撃的なインパクトのある決着など、シャープさ、スピード、重量感、というこの作品の三大要素が最も決まった場面だと思う。

素早いカメラワークやカット割りのみならず、リアリズムが許容するよりワンテンポかツーテンポほど速い人物の動きや、死んだ味方を盾にしての敵陣への突入、鎌で刺した敵を振り回しての牽制、といった、闘い方そのものにも表れた、思い切りの良さ。中国から来た戦闘集団の、実にプロ的な、無駄のない動きや、闘いのさ中に顔に一瞬閃く、狂気に充ちた、瞳が極端に小さく描かれた目など、殺気に充ちたテンポの良さ、とでも称すべきものがある。これにノれるかどうかが評価の分かれ目だろう。

なにしろ、中国皇帝に献上される不老不死の薬の為に生き血を狙われる仔太郎、という焦眉の問題そのものが何やら血に憑かれているし、全篇に繰り広げられる流血は、この少年を救う為というより、逆に少年の救出劇を後づけの言い訳にしているような印象が否めないのだ。この設定そのものもさることながら、その為に作られた巨大な祭壇も、その荒唐無稽にドラマ的な説得力を与える描写が何も無い。「小気味よく人がブッタ斬られていくなぁ」と感心できなかったらもう、こんな映画にはついていけない筈。脚本も完全にこちらの想定内の展開しか盛り込んでいないのだから、仕方がない。

ただ、何も派手な暴力描写に偏っているわけではなく、キャラクターの心理描写も丁寧に為されている。仔太郎が、怪我を負った愛犬・飛丸を助けようと、手で掬った水を零さないよう、急ぎながらも慎重に運んできた水が、虚しく飛丸の口の間から滴り落ちるさま。仔太郎を売った祥庵が、名無しに襟首をつかまれている時の、卑屈さと開き直りと一分の理のない交ぜになった、様々に変化する表情。最後の決闘で羅狼を斬った名無しが、相手が動けなくなったことを確認して初めて息を吐く、という間の取り方。こうした人間性がきちんと描かれているので、ベタな救出劇にも、勢いで感動させられてしまう。

と、まぁ、アニメーションに関して言えば、ビデオで何度も見直してしまうくらい素晴らしいのだが、キャラクター造形や脚本は、既存のものを寄せ集めたような既視感あふれる内容。主人公の、体中に負った傷や、抜かない刀、異質な髪色などに表された、トラウマ、孤独さといった性格付け。最初は彼に対して突っ張っていた少年と、金目当てで道中を共にする内に、芽生える絆。そうした使い古されたお約束的な物語も、現代の緻密かつダイナミックなアニメで描き込めばこれほどのものになるのだ、ということは充分に伝わったので、今度はそのアニメ技術に相応しい、物語上の冒険にも期待したい。

(評価:★3)

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