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[コメント] イーグル・アイ(2008/米)

いかにして視覚と音声から情報を認識するか、というメタ映画的テーマは追求されず、理由も分からず相手も見えず、巻き込まれ混乱するままに行動を強いられる主人公らと共に揺れ動きまくるカメラに観客の耳目が揺さぶられて終わりの映画。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







冒頭シーンでは、声紋によるテロリストの特定が充分ではないというコンピュータの警告を無視して大統領命令により爆撃が行なわれる。これを受けて密かに「ギロチン計画」を計画したコンピュータ・アリア(ジュリアン・ムーア)によって、双子の兄弟の代わりに求められる主人公ジェリー(シャイア・ラブーフ)がコピー店で働いているという皮肉。コピー機が使えないと訴える客に彼が言う台詞は「クレジットカードを入れて下さい」と、やはり機械による認証を求めるもの。遂にアリアの許に辿り着いたジェリーは、一通りの生体認証を受けた後、最後の締めとして、事の発端と同じく声紋により、兄弟がかけたアリアへのロックを解除する。アリアは合衆国憲法に則ってクーデターを行なうのだが、もう一人の巻き込まれ人たるレイチェル(ミシェル・モナハン)は法律事務所の事務係。

声紋認証のみならず、クーデターの手段も、一定の音波に反応する爆発物によるもの。「アリア」という通称もまた、音楽用語の一つ。ペレス捜査官(ロザリオ・ドーソン)とボウマン少佐(アンソニー・マッキー)がアリアの死角に入って相談し合うシーンでは、アリアは音声を盗聴して会話の内容を認識している。一方、音声が遮断された際は、読唇術や、テーブルに置かれたコーヒーの波紋など、視覚情報によって音声を読み取ろうともする。「音」と「画」からどのように情報を得るかという、勝れて映画的な駆け引きが期待できそうな設定だが、それを追及し得るような知性が参加していない点が惜しまれる作品。全能と思えても所詮は人の造った機械に過ぎぬアリアとの頭脳戦が展開するわけでもなく、アリアの指示から逃れたジェリーの奮闘は全くの肉弾突進系。

どこから誰に監視されているか分からないというのが物語の軸になっていながらも、画面はやたらと揺れ動き、寄りの画を多用する。そうしていないと今どきの観客に飽きられるのではないかという強迫観念にでも駆られているのか。訳の分からぬままに翻弄される主人公たちの視点に寄りすぎて、彼らが置かれている「監視」状況をショットで実感させてくれる箇所が少なすぎて詰まらない。全篇殆どが監視カメラを介したショットである『LOOK』のような画作りと半々程度にしてちょうどいいくらいだったのではないか。監視カメラのモニターでなくとも、俯瞰的な固定ショットを巧く活かして雰囲気を演出してほしいところ。偵察機や監視カメラという「上」からの視点と、アリアの本体が「地下」にあるという対比による、地上の人間をサンドイッチにした世界観も、特にこれといった機能を果たさない。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)Sigenoriyuki YO--CHAN[*] おーい粗茶[*] 3819695[*]

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