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[コメント] インスタント沼(2009/日)

気のせいか、冒頭シークェンスに象徴的なように、いつになく情報量が多い仕上がりに思える。詰め込みすぎで、さり気なさを装いつつ充分狙われた感のあるギャグの殆どが笑えない。麻生久美子のキュートさに救われる反面、アイドル映画的レベルの停滞感。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ハナメ(麻生久美子)が気にかけ続けている、沼に沈めた招き猫のシーンからして、物語のどこかでこの猫を回収し、ハナメの過去との和解というテーマを描くことになるのだろうと予想がついたが、まさにその通りに物語が回収されてしまう。ナンセンスと不条理の果てに辿り着く場所があまりにも分かり易い。過去の回収という点では、ウサギの足の裏に付いていたプリクラによるウサギの回収や、ツタンカーメンの占い機械にしても同様。ラスト・シーンは、このツタンカーメンに仕掛けをして、和歌子(相田翔子)の過去を密かに改変してまんまと彼女と一緒になったノブロウ(風間杜夫)に未来が無さそうな様子と、ハナメのカラッと明るい様子が対照的。

今回、耐え難かったのは、ギャグを面白く受けとる為の「間(ま)」に難があったこと。冒頭の畳みかけるようなダジャレ的シーンの連続に早速覚えた不安と不満は、最後まで解消されなかった。

滑り続けたギャグの連続、その冷え切った希薄な空気に耐え続けたことによって、終盤に至ってようやくこの作品の世界観を一応は許容できるようになっていたのに、そのタイミングであの最悪な展開が。即ち、インスタント沼から現れる沼の主、金の龍。UFOを、幽霊を、河童を見たなどと主張する母に対して「あり得ないものはあり得ない」と全否定していたハナメ自身が「あり得ないもの」を目の当たりにすることによる、一つの成長。分かりやすい。実に合理的かつ、物語として理に適う。が、それ故に、派手にCGを使っていようとも、驚きはない。視覚的なバカバカしい派手さも、理詰めで龍が飛び出しているに過ぎないのが虚しい。尤も、これ以上ないほど間近で龍を見たハナメが、後からそれが本当に龍だったか疑う様子で、写メで確認するという日常性への回収はいかにも三木聡らしいが。

そもそも、初っ端のハナメの朝食が、ミロの粉から作って泥水状、という時点で「ああ、沼ね」と了解してしまえるので、蔵に詰められていた土砂を沼に戻す「インスタント沼!」という発想には「ほぅ」と感じはするが、予め整えられていた道筋だったんだなと、ここでも何か理に落ちた感が拭えない。どうせならもっと理屈付けしてインパクトを強める形に、例えばハナメが、「しおしおミロ」を周囲から散々バカにされた挙句、最後に「しおしおミロ」の発想で人生の底なし沼から脱出する、といった伏線が張られていたならまだ良かったのだけど。

次々と衣装を変える麻生久美子のキュートさのお陰で辛うじて観ていられる、と言いたくなる所だが、そうした、被写体としての安定感が、不安定で不条理な面白さを奪った面もあるかも知れない。着せ替え人形のように次々と姿を変えていった麻生だが、僕には、沼を水で戻した達成感に満ちた、顔に泥の付いた麻生がいちばん魅力的に思えた。それは何も僕の個人的な好みだけの話ではなく、この姿の麻生にこそ最も、映画を能動的に動かしていく、汗も努力もある主体性が感じられるからだ。全篇通して、彼女の可愛らしさに助けられて何とか観ていられた感はあるが、反面、ギャグとなるべき場面が、麻生が可愛い場面に終わってしまった箇所も少なからずあったかもしれない。いっそのこと、厭味な看護婦役の五月女ケイ子に主演させてみた方が成功した可能性もある。母親役の松坂慶子も、あまりに女優然とした美人なのには違和感がある。

今回勿体ないのは、例の二人。岩松了の、不条理さの上にドッカと腰を落ち着けたような、意味不明の自信に充ちた顔。ふせえりの、何やら口から卵でも産みそうな、妙なふうに突き出たような顔。この二人ほど三木監督の世界観にピタリと嵌まる者はなかなかいない。これはもう、二人をハナメの両親にして、主演は五月女でやってほしかった。ふせは割とハナメに絡んで活躍していたが、話の根幹部分に貢献できるポジションではない。岩松は使い捨てのよう。

蛇口を思いっきりひねったままで外出する冒険シーンのような秀逸さがある一方、それを、沼まで長々と引かれたホースの、水の溜まった球状の膨らみをハナメが追って走るというマンガ的なシーンに置き換えてしまう短絡さ。そして、ヒロインにラストで映画のメッセージを長々と演説させる幼稚な直截さ。あの龍にしてもそうだが、マンガ的でありかつメッセージが直接的。これ即ち安易。

雑誌が休刊になった際の打ち上げで、笹野高史が「バンザイ」の代わりに「残念」で万歳するギャグはなぜか笑えたが、これは笹野がまるで何でもないシーンとしてサラッと演じていたお陰だろう。麻生含め、他の役者がそこまでサラッとやってくれていたとは僕には思えず、それが笑えない一因でもあった。温水洋一がハナメの部屋の窓を見上げて「おや?」というシーンも一回目は、窓辺の光景にしても温水にしても静的な何気なさがあってクスッと出来るのに、どんどんこれが崩れていくのが痛い。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ロープブレーク[*] 立秋[*]

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