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[コメント] ジョニー・マッド・ドッグ(2008/仏)

純白の花嫁衣裳や妖精の仮装を身にまとって暴力を繰り返す少年兵たち。平和や幸福の衣装を奪った狂気の異装はまた、元の名を忘れた彼ら自身が何者なのか分からぬカオスを発散する。何者かと問われたら、反政府軍「デス・ディーラー」だと名乗るのだろうが…
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







父が、撃たれた傷が元で亡くなり、弟ともはぐれた少女は、一度出会い視線を交わしたマッドドッグと再会した際、まさに彼の「デス・ディーラー」としての振る舞いを見ていたからこそ、彼が弟を殺したと決めつけ、奪った銃の銃身で激しく彼を殴打する。高圧的に振舞い、命令することしか知らないマッドドッグは、彼にそれをさせていた当の銃によって、殺されそうになるのだ。他人を「ドゴだろ」「政府の味方だろう」と一方的に決めつけて暴力を振るっていた「デス・ディーラー」の一員としてやってきたマッドドッグは、その「デス・ディーラー」であるがゆえに少女から、弟の命を奪った者として断罪される。

少女は、マッドドッグに無理やり引っ張り込まれて、狭い部屋で対峙した際、それまでの被害者たちのように泣くこともせず、媚も売らず、固く冷たい表情を保ち、最低限度の、自分が口にしたい言葉以外は、口を利くことさえ拒絶している。ラジオでは「ガキに『笑え』と指図され、泣くと殺される」と国の現状を嘆く男の言葉が流れていたが、少女は、その「ガキ」の前で何らかの人間らしい反応をしてみせること自体を拒絶し、その強さがマッドドッグを圧倒する。

ラストシーンに入る前、マッドドッグは、それまで政府側の人間と見做した相手は家畜のように殺していた将軍が、あっさりと政府側についたことを知る。将軍はマッドドッグに、「体を洗え。臭うぞ」と言う。体もろくに洗えないような行軍を続けてきたのはこの将軍の命令に従ってのことだったのだが。一人去っていくマッドドッグの姿。それに続くカットでは、少女が、孤児となった幼女の体を洗ってやっている。それと対照的に、「デス・ディーラー」という唯一の絆にさえ裏切られた格好のマッドドッグ。

「ノー・グッド・アドバイス」だとか、「ネバー・ダイ将軍」だとか、ヒップホップ・アーティストか何かのような通称を名乗ってクールさを気どるデス・ディーラーたち。キング牧師の演説をラジカセから流しながら、「誰が喋ってるんだ?」、「大統領だろ」といった的外れな会話が交わされる。死んだ仲間を悼む鎮魂歌も、妻に俺のモノを切り取って贈れば、彼女はそれで自分を慰めるだろうという、やはり男根主義的な内容なのだが、その歌詞は、死んだ少年の魂に向けて少年が歌う内容としては、どこかブカブカの大人の服を無理して着ているようなミスマッチさがある。

陥没した橋を渡るシーンや、狙撃手に襲われ、密かに忍び寄って物陰から仕留めるシーンなど、戦場の空間性が感じられる演出。対して、ラストシーンの部屋の閉鎖性は、その息苦しさが、対峙するマッドドッグと少女の間の緊張感そのものとなる。

(評価:★3)

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