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[コメント] セックスと嘘とビデオテープ(1989/米)

他者と触れ合う接触面にして、互いを隔たらせる壁としての、肌と言葉とカメラのレンズ。セックスと嘘とビデオテープ。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







人前で勃起できない&嘘をつけなくなった男、グレアムと、妻の妹と寝る嘘つき男、ジョン。グレアムは、肉体的に女性と関わる事が出来ない代わりに、ビデオカメラのレンズという物理的な隔たりを介する事で、女性の正直な内面に触れていく事が出来ている(ように見える)。逆に、嘘つき浮気男ジョンは、嘘という、互いの内心を隔たらせる手段でもって、妻の妹と寝るばかりか、かつては親友の恋人をも寝取っていた。そのジョンが、自分が関わった女二人がカメラの前で告白を行なった事に激昂するという点がポイント。つまり彼もまた、女の内面性というものに、まるで無関心でいるのではないわけだ。他にも、扉をいつでも開けっ放しにしているグレアムと、戸締りもせずに出て行った事を妻に問い質すジョンの対比なども面白い。

グレアムが嘘をつけなくなると共に人前で勃起できなくなったというのは、嘘をつく=女性を誘惑する事と、勃起する=赤裸々な自分を見せるという事が両立できなくなった、という事なのだろうか。肉体的に触れ合う事が無いからこそ、女たちは彼に正直にその性的体験を話していく…。だがアンが、彼が一方的に向けていたレンズを彼自身の方へ向けた事で、互いの肉体を隔てていた壁が崩れ落ちる。と同時にアンとジョンの偽りの結婚生活もまた崩れ落ち、飛行機事故や難民の事など、自分からは遠い人々の事にばかり関心が移っていたアンは、現実に自分の目の前にいる男を救う方へと、心のベクトルが変化する。だからこそ、最後に並んで座るグレアムとアンが交わす会話「雨になるわ」「降り出したよ」という台詞は、二人が、今まさにその肌で感じている世界を共有し合い始めた事を暗示していて、印象深い。

嘘つきとして、弁護士として、言葉を介して人と関わるジョンと、レンズを介して人と関わるグレアム。対して、自分に正直に生きるシンシアが、画家という、自分の内面をそのまま他人の目に見える形にする職業に就いているという点が、一つのミソなのかも。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)irodori ダリア[*]

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