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[コメント] スティング(1973/米)

エンターテイナーのsting。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







stingとは、「人を言葉で煽り立てる、騙す」という意味の他、「心の痛み」という意味もある。ラストで、詐欺が見事成功した後にフッカーが呟く、「やっぱり虚しい」という台詞には、この成功で、殺された恩人が帰ってくるわけではないことへの心の痛みが感じとれる。また、この「虚しい」という言葉は、計画の決行前夜にゴンドルフが洩らしていたものであり、長年、凄腕の詐欺師として成功してきたにも関わらず、今はFBIに追われてコソコソ隠れて生活している彼の諦観が垣間見える台詞。この言葉を、大掛かりな詐欺計画を遂に実行するに先立って吐いてしまうところに、詐欺というものがどういうものであるのか、経験によって骨身に沁みているであろう彼の哀愁が滲み出ている、と言えるだろう。そしてこの同じ台詞を、計画の成功後に、後輩である若き詐欺師フッカーが漏らすところに、世代交替劇としてのこの映画の味わいが感じられる。

冒頭の、運び屋を主要人物に見せかけつつも、ただの騙される間抜けとして脇に追いやる展開は、昨今の映画にも類例があるにも関わらず、あっと思わされた。フッカーがズボンに金を押し込んだ辺りで察しはついたけど。殺し屋の正体が判明する場面も面白いのだけど、あの女性が大して魅力的でもなく、フッカーに接近する素振りも見せていないので、本当にちゃんとプロとして計画的にフッカーに忍び寄っていたのだろうかと、その辺がちょっと疑問。正直、伏線の張り方にはそれほど緊密な計算が感じられはせず、最後のどんでん返しも、あっ、騙された!というよりは、ああ、その展開か、という範囲。後続の映画が様々な騙しの手法を使いまくっているのを観てきたのが災いしたんだろうな、と、少し残念。仕方の無い話ではありますが。

脚本の巧妙さよりも、ドアや柱の赤さや、狭そうな室内のメリーゴーラウンド(競馬を用いた詐欺の暗喩でもあるのだろう)、冒頭での、ボロい建物の前に並ぶ人々を遠景で捉えたショットから徐々にカメラが左に寄りつつ男の歩く足元をクローズアップする流れ、そしてその足元でパッと明るくなる地面、といった、場の空気感、物語とは特に絡まないディテールの方が、妙に印象に残っている。

あのテーマ曲の題名が『The Entertainer』であるのは絶妙。劇中での詐欺が、どこか演劇や映画作りとノリが似ていることや、作品全体に漂う軽みに、よく合っている。騙しの標的が去った後で仲間同士で笑い合う場面の朗らかさは、そこから生まれるのではないだろうか。

因みに、心地好く騙されたという意味では『ラッキーナンバー7』の方が、雰囲気も含めて好きですね、僕は。(更についでに言うと、評判の『ユージュアル・サスペクツ』は、それほど好きではない)

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Myurakz[*] けにろん[*]

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