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[コメント] 目撃(1997/米)

イーストウッド演じる泥棒の職人的な手つきやその表情が魅力的だが、その軽妙さとサスペンスとがマッチしない。まず覗きシーンに変態さが足りない上、不必要に長く、出だしから漫然とした印象。
煽尼采

**ネタバレ注意**
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冒頭の「目撃」シーンが結構長いのだが、ヒッチコックの冷徹かつ悪意的な眼差しも、デヴィッド・リンチのような不条理性や変態的眼差しも持ち合わせないイーストウッドの演出は冗長。ああした、かなりあからさまなセックス・シーンを撮っても、イーストウッドの場合は何か「健康的な退廃性」とでもいった域にまでしか達しない。大体、あんな堕落しきった様子の男女があんなことやこんなことをしていても覗きの背徳性は感じられないのだ。そんなものは最初から狙ってないよというならそれでもいいが、それなら例えば、置きっ放しにしてしまった泥棒道具が二人に見つかりそうで見つからないハラハラ感だとか、陽気にセックスしようとしていた二人が徐々に噛み合わなくなる微妙な可笑しみだとか、何かやるべきことがもっとあった筈。

ルーサー(イーストウッド)が盗みに入った屋敷の階段を上るシーンで、おそらくルクレティアの自害を描いたのであろう絵が見える。女とナイフ、という形で事件を予告しているのかも知れない。度々画面に絵画が現れていたが、どうせなら、肖像の「眼差し」をもっと活かした画作りなり何なりを工夫してほしい。また、宝飾品などのお宝が観客のワクワク感をそそる画で撮られていないのも不満。

白昼の屋外カフェに銃弾が撃ち込まれるシーンでは、警察、大統領警備官、殺された女の夫に雇われた暗殺者、といった三者三様の眼差しがルーサーに注がれる面白さがある反面、白昼の銃撃というところがなまじ『ダーティハリー』を想起させるせいか、視線の交錯や日常の転倒を演出する空間把握力にやや不満を覚えさせられもする。

原題の「Absolute Power」は、イギリスのジョン・アクトン卿の箴言として人口に膾炙した「Power tends to corrupt, and absolute power corrupts absolutely.(権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗する)」から採られたのだろう。大統領が、殺された女の首飾りを、それと知らずに喜んで着けている補佐官とダンスしつつ彼女にそのことを告げるシーンの、歪んだ可笑しみが面白い。だがジーン・ハックマン演ずる大統領の人物像があまりに安易な悪党でしかなく、物語に陰影を生まない。彼が「私の父だ」と呼んで公衆の面前で抱きしめていたサリバン(イー・ジー・マーシャル)が実は、殺された女の夫なのだが、最後に大統領に自ら落とし前をつけさせたサリバンの振る舞いは、ルーサーとはまた違った意味に於いて、「父」としての責任の取り方だったのだろう。

ルーサーは、刑事・セス(エド・ハリス)が語ったところによれば、盗みはしても、殺しはしない男。その彼が、娘・ケイト(ローラ・リニー)の命を奪おうとした男を、容赦なく殺害するシーン。しかも、病室で横になっている娘のベッドのすぐ傍でそれを行ないながらも、娘には、何でもない、大丈夫だといった調子で安心させる。こっそり娘の部屋に忍び込んで彼女の身を案じたり、暗い食卓で一人、誰かと乾杯するようにしてワインを傾ける粋な振る舞いの背後に垣間見える寂しさと優しさは胸を打つ。反面、ケイトは観客もまたその身を切なく案じさせられるほどには魅力的な人物造形が為されていない嫌いがある。

(評価:★2)

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