コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 毎日が夏休み(1994/日)

演じる役者の芝居臭さも含めた厭らしさ漂う世界から超脱する、佐伯日菜子の麗しき棒読み。俗世に対する佐野史郎の聡明なる愚鈍さを、良い意味での常識で救う佐伯の安定感。日本映画史上に記憶すべきコンビかも。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







スギナ(佐伯)が、父(佐野)が送別会で笑いものにされたことに反撥して、皮肉を込めて贈られた餞別をすべて返しに行った朝、その行動に怒った父によって「クビ」にされたスギナは久方ぶりに登校するのだが、ここで初めて観客も、彼女が学校に行くことに疲れた心境を肌身で理解する。同級生どころか英語教師にさえ冷たい扱いを受ける彼女が父からの電話で「君が必要だ」と言われたとき(この電話が「授業中」に、つまり学校のシステムを中断させるかたちでかかってくるのがまたいい)、スギナが再び「林海寺社」に戻ることの予感が、安心感と共に胸に湧く。スギナが廊下をスキップするカットのボイスオーバーで彼女の声が「君が必要」という言葉への喜びを語る台詞は、佐伯の、上擦ってさえいる声もどこか、学校という空間を撥ね退けて跳んでいるようなスキップ感で充ちているようでもある。

佐伯のやや初々しすぎる演技が、佐野の安定感溢れると同時に奇妙な存在感と合わさって、絶妙のアンサンブルを成す。ただそこでひとつ気になるのは、最後のナレーションで佐伯の声が「成長したスギナ」の声に交代してしまうこと。佐伯に、成長した声まで演じるような力量が当時有ったとも思えないが、もう少し声質の連続性が感じられる役者がいなかったのか。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。