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[コメント] 電話で抱きしめて(2000/米)

三姉妹が三つの金髪頭を並べた画が鬱陶しく感じるほど映画に入り難い原因は、電話がしょっちゅう鳴っている忙しなさだけではなく、会話劇中心のくせに気の利いた台詞に乏しいせいだけでもなく、役者の演技ばかり追う画作りの幼稚さが最大敗因。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







電話はD・W・グリフィスの頃から、異なるシーンを一つのシーンに結合する媒体として便利に使用されてきたし、近年は携帯によってアクションとの同時進行すら容易にしたわけだが、本作のように忙しなさや騒々しさの演出に専ら使用されては観ているこちらも疲労する。俳優監督の傾向かもしれないが、役者の演技ばかり追って小道具や空間などを活かせていない画面作りが退屈極まる。カット割りが効率的に過ぎて効果的でなくなっているのも、見せるものを見せればそれで事が足りるかのような勘違いが原因だろう。この映画は尺が短めなのだが、他の映画がもう少し尺が長いのには、それなりの理由があるのだ。

ニクソン似の父(ウォルター・マッソー)というキャラクターは面白く、ニクソン資料館だか何だかの空間の使い方も好きなのだが、反面、その父が入院している病室や、彼が昏睡状態になるシーンの、姉妹が沈鬱な表情で座っている待合室、または自宅といった空間を巧く捉えた画が無い。白いカーテンが風にふわりと揺れて画面を一瞬覆うようにするカットも、構図といい照明といいカメラワークといいカーテンの揺れ方といい、何かが違う……。全篇通して、画がよくない。それでいてラストカットは、三姉妹がはしゃいでいる部屋から退いて自宅という空間を見せつつ消えていく形が採られている。それならそこに至るまでに、自宅に於ける父の不在というものを感じとれる画作りをしてくれていてもよかったのでは?

父が次女・イヴ(メグ・ライアン)の息子の誕生パーティをぶち壊しにするシーンは、観客の感情を大きく揺さぶる大事なシーンなのだが、まずカボチャのランプがたくさん吊られた部屋の飾りつけが目に愉しく撮られていないし、父が落っことして台無しにするケーキも、その場面で初めて観客の注意を引くので、ぶち壊される「パーティ」が予めこちらの意識に入ってこず、結果、事態の悲惨さも痛切に感じ難い。潰れたケーキも、一瞬画面に入ったかと思うと、とっととフレーム外に追い出されてしまう。ケーキが潰れてパーティも潰されちゃいました、という情報が伝わればそれでいいかのような雑な演出。役者が映って何かしている画面だけが映画じゃないんだぞ。まったく、繊細さの欠片も無い。

会話劇としての面が強いにも関わらず、台詞が大して気の利いたものではないので、延々とどうでもいい会話を聞かされている気分になる。終盤で三姉妹が大ゲンカするシーンにしても、三女・マディ(リサ・クドロー)が唐突に、少女時代のハロウィンで一人置いてきぼりを食った恨みつらみを口にする台詞は、イヴの息子の誕生パーティがハロウィン風だったこととリンクさせたのだろうけど、このひと言で、有名女優気取りの彼女の脆さや幼さが見えたような印象も無く、取って付けたような台詞に聞こえる。第一、それに先立つ長女・ジョージア(ダイアン・キートン)の偽善者ぶりも多分に戯画的で、最後に病室で父を心配し、その死を嘆く言動と整合性がなさ過ぎる。勿論「人ってもんは整合性なんて無い生き物なんだ」と、理屈としては言えるが、その理屈に適うようなキャラクターの掘り下げが為されているわけではない。

また、冒頭から、電話による他者の介入の鬱陶しさが際立つ演出が為されているせいで、携帯に気をとられたせいで事故ったイヴがぶつけた車の持ち主である医師とのやりとりにも、何かストレスを覚えてしまう。この医師が、「母との会話なんて無いわ」と答えたイヴに「それはよくない」と、かなり余計なお世話な意見をしてくるシーンや、彼の母親の気遣いにイヴが縋りつくシーンには、外国人というまったくの他者の介入が、却って余計な面倒臭さを突き破るコミュニケーションを実現する、というアイデアで、イヴの閉塞状態を突破させようとしているようだが、その結果として家中の電話を引っこ抜いたイヴの行動が劇的に何かを変えたように見えない(心境の変化というより、単純にキレただけにしか見えない)という不徹底のせいで、結局は医師の母も、突然湧いて出てきたデウス・エクス・マキナに見えてしまう。

(評価:★2)

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