コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] シェーン(1953/米)

昼は乳白色がかったパステル調の色彩。夜はモノクロ映画かと思えるほどに抑制された色調。統一性のある画面は美しい反面、やや単調。少年は「純朴さ」を示す記号のようにしか思えず、あまり情動をかき立てられる映画ではない。だが、意外な厳しさの漂う作風。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







画面に関しては、敵方のガンマンが酒場の前で射殺を行なう場面での、地面の泥の、殆ど金色に画面を輝かせたショットがインパクト大。ライトシーンよりも強く脳裏に焼きついた。

シェーンの登場シーンは、少年ジョーイが鹿を撃とうと狙っている視線のさらに先、画面奥から姿を現す構図であり、彼を見つけたジョーイは、鹿から視線を外す。シェーンは、少年が銃による殺しをするのを制するようにして登場する訳だ。この時にジョーイの銃に実弾が入っていないのは、後から分かる事だ。

シェーンは少年に銃の撃ち方を教えはするが、やはり最後は、人を撃った者には安住の地は無いのだと諭して一人去っていく。あの有名なラストシーンは、そこに至るまでのシェーンと少年の関係がそれほど丁寧に描かれていたとは思えず、特に感動もできなかったのだが、その画面の暗さは、妙に印象的だった。

この映画は長閑なホームドラマではない。シェーンが温かい家庭に迎え入れられて、といった描写よりも、酒場での一件が知られ、皆から臆病者と見なされて独り雨の降る暗い外に立つシェーンの惨めな姿の方が、より印象に残る。シェーンは、汚名を雪ぐ為に今度は酒場で大乱闘をした後、マリアンに怪我の手当てをしてもらうが、その時にジョーイが母マリアンを呼び、ドアの向こうで「僕、シェーンが好きなんだ。いいでしょ?」と話す声が聞こえる。無言で去るシェーン。誰もいない部屋に聞こえるジョーイとマリアンの会話。「父さんと同じくらい好きなんだ」。この言葉が、マリアンの心情をも代弁している事が、それまでの場面に流れていた空気からも察しがつく。

ラストシーンでジョーイは、シェーンに縋りつくように、「後ろからじゃなけりゃ撃たせなかったよね?」と訊く。直前の闘いで、背後から撃たれかけたシェーンは、ジョーイの警告で辛くも殺されずに済んだのだ。逆に言えばガンマンは、いつ何者かに背後から撃たれるか分からないのだ。ジョーイはさらに「母さんもあなたが好きなんだ」と叫ぶが、少年の「好き」とは意味が違う事をジョーイは理解していない。スターレット一家の絆を壊さない為にも、その父ジョーへの義理としても、シェーンはやはり去らねばならない。

こう論じていくと、牧畜や、土地を耕して生きる事と銃とは相容れないかのようだが、そう単純な話にはなっていない。スターレット達を土地から追い出そうとする老人ライカーは、自分達の世代が苦労して開拓した土地に勝手に入って来たお前らは何だ、と非難する。だがジョーは、あんた達だって先住民から土地を奪ったんじゃないかと言い返す。そして結局、どちらが土地を得るかは銃で決する事になる。土地を獲得するにも、それを守るのにも、最終的には銃が介在せざるを得ないのだ。

だが、銃で人を撃てば、一つ所に留まり、そこで生活を築く事は叶わない事は、シェーンが示している事。スターレット達が土地を得るには、そこに留まる事の出来ないシェーンが、人を撃つしかないという皮肉。ジョーが「この切り株と二年格闘してきた」と言う切り株を倒すのに初めて貢献した人間であるシェーンが、その切り株の除かれた土地に留まれないという事。この構図は僕には、クリント・イーストウッドの或る映画を連想させる。

「Shane」という名の響きが既に切ない。少年に叫ばせる為にこの名にしたのかとも思える。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)なつめ[*] 3819695[*] ジェリー[*] ぽんしゅう[*] けにろん[*] ゑぎ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。