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[コメント] 案山子/KAKASHI(2001/日=香港)

和製『ペット・セメタリー』?案山子というより、巨大藁人形といった印象。演出と脚本の甘さは、脳味噌の代わりに藁を詰め込んだ者の為せる業の如し。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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案山子という、誰もが知っていながらも都会に住んでいれば、実際に目にする機会もまず無い物を題材にして、ちょっと民俗文化的な味付けを施しつつ和製ゾンビに仕立て上げる妄想力は、面白い。が…。

意外と、映画の冒頭を数秒観ただけでも、その映画全体の出来具合が予測できてしまう事が多いのだけど、この映画もまた、冒頭の長々と説明的な字幕が流れた時点で、駄作の匂いが漂いはじめる。で、やっぱり駄作。

脚本に穴が多いのが気にかかるが、映像的・演出的に見るべきものがあれば、所詮は娯楽としてのホラー映画、多少の不条理には敢えて目をつむる。が、個々の場面での細かい演出の詰めの甘さが致命的。そのせいで、全ての場面が‘とってつけた”感を醸し出す。

一例を挙げれば、かおるが訪ねた交番の前を、風車を手にした子供たちが「ワーイ、ワーイ」と歓声を上げながら走って横切る場面。風車は恐山のそれから連想して使ったのだろうけど、この子供の歓声、彼らがちょうど画面に映った時だけしか聞こえていなかったような。細部に神経の行き届いている演出家なら、歓声が徐々に近づいてきて遠のいていく、自然な表現にしておく筈。

村人に直してもらった筈の、かおるの車が、彼女が村人たちに襲われそうになった時、キーを回してもエンジンがかからない、という展開は、ホラー映画にありがちな展開だけど、あとから兄や中国人女性と脱出を試みる時には、簡単にエンジンがかかる。が、あとからまたピンチが訪れた際には、やっぱりなかなかエンジンがかからない。ご都合主義もここまで来ると、観客をコケにしているとしか思えない。

泉の、女子中学生が書いたかのような稚拙な手紙(稚拙といえば、日記もだが)は、劇中のほのめかしでは案山子の手によるもののようだけど、泉が案山子の儀式で甦るのは、物語の終盤というか、殆どラスト。手紙は冒頭辺りに登場するので、時間軸がおかしい。いや、時間軸がおかしくても、デビッド・リンチばりに映像の説得力があれば文句は無いんですよ。でも、これじゃあな…。

案山子として甦った死者たちが生者を襲う理由も不明。「ホラーのお約束ですから」で済まされては、な…。まあ、主人公が大した理由も無いのに怪しげな暗がりを捜索(捜索と言うほどの目的も無く、ただウロついているだけだけど)したりする辺りは恐怖映画のお約束だとしても、例えばヒッチコックの『』みたいに、演出力による力業的な説得力が伴っていなければ、「お約束」だけが浮いて見えてしまう。

終盤で女の子が父親の折檻であっけなく死ぬのもわざとらしいし、その女の子がなぜ生き返ったのかも、何の説明も無し。少女に襲いかかられた、泉の父が、「なんで?」みたいな顔をしたまま座り込んで、襲われるのをジッと待っているのも、緊張感を欠く。ま、普通の人間だと思っていた警官が実は案山子だったという場面もあった事だし、この女の子も実は一度死んでいて、また死んでしまったという風に解釈できなくもない。が、父親とのやりとりの中に、その事の必然性が感じられない。例えば、村人から「あの父親、以前は娘によく折檻していたのに、或る時から急に大事にするようになってねぇー」的な話があれば、「娘、実は案山子でした」、という事になっても納得いくんだけど。

ラストでかおるの兄が甦る理由も謎。案山子の儀式で初めて甦る筈の泉が、実家の二階でウロウロしている理由も不明だし、「恐怖演出です」の一言で済まされるには、演出的にベタ&ヘタに過ぎる。こんな事があまりに重なるので、「愛する人の蘇りを願う者の手で、儀式を経てこの世に帰る」という案山子の存在意義を、自ら崩してしまっている。

その二階でかおるが見つける、泉の日記の内容から察するに、泉はかおるの兄、剛と大して接触できていないようだが、それならなぜ、剛は泉に執着しているのか。或いは、手紙を渡していない云々の話は泉の被害妄想に過ぎず、かおるは手紙を渡す等はしていたのか。はたまた、剛はかおるがべったりしてくる事に疲れていた、と告白していたので、その逃げ道として泉に過剰に依存していたのか。その辺りも最後まで曖昧。その剛が、かおるに一発叩かれただけで正気に返るのも、調子の悪い電化製品みたいでしょぼ過ぎる。甦った泉と再会した時、彼がいつの間にか火薬を手にしているのも、最初から「一目逢えたら、心中しよう」と考えていたとも取れるけど、その辺の心情(の変化?)の描写が無さ過ぎて、これもまた‘とってつけた’感じ。

(評価:★1)

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