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[コメント] ダーティハリー4(1983/米)

シリーズ作全てを束ねても第一作にまるで及ばないが、その中でこの『4』は第一作に次ぐとは言える。時に現れる、毒々しい影絵のような画が構築する世界観もよい。(他シリーズ作にも言及→)
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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レイプ被害による心的外傷を負うジェニファー(ソンドラ・ロック)が、ハリー(クリント・イーストウッド)といとも容易くベッドを共にしてしまうシーンには、「ハリーだから」とか「主人公だから」では済まない違和感を覚えてしまう。法が裁けない悪への憤りを共有しているにしても、そうした密かな絆とも呼べる関係は、ラストのハリーの言動(死んだレイプ犯を連続殺人犯に仕立て上げる)のみで簡潔に示した方が適切だったのではないか。ジェニファーが口にする「助けてほしい時に、どこに居た?」という台詞は、後に『トゥルー・クライム』でも耳にすることになる。恐らく、西部劇(的)ヒーローとしてのイーストウッドには、重く響く台詞でもあるだろう。

ハリーがジェニファーの復讐に気づくのは、殺された女の家の鏡が割れていたのと、ジェニファーの家の鏡が割れていたこととの照応を目にしたからだが、それは同時に、ジェニファーが、復讐者と化した自身の姿をも破壊してしまいたいと願うその悲惨な心境にハリーが気づいたということでもある。これがラストの、ハリーが法に目を瞑る行為の根拠でもあっただろう。第一、女の家に警告に訪れたハリーは、そこで番をしていた男をしょっ引くことで、結果的にはジェニファーによる女の殺害の手助けをした格好になってもいる。このことは別にハリーの意図では全くないのだが、ハリーとジェニファーの怒りの共有が、プロットにも埋め込まれていたのだと見ることも出来るだろう。

レイプの回想シーンやラストシークェンスでの、メリーゴーランドや観覧車といったメルヘンな装置と、電飾。ソンドラ・ロックの出演という点も含め、これはやはり『ブロンコ・ビリー』の反復だろう。とはいえ、一見すると牧歌的な『ブロンコ・ビリー』の方が画のインパクトはより強いのだが、回転ブランコの客の歓声が、ジェニファーの悲鳴の代わりとして用いられる編集は、彼女の引き裂かれた感情を巧く捉える。先の鏡の例と同じく、その簡潔さが効果的。一言も発しない妹の病室をジェニファーが訪れるシーンでの、復讐としての殺人を告白された妹が無言で流す涙もまた、観客にその意味について悩むよう促しているように思える。

囚われのジェニファーの許に現れるハリーの、逆光での登場は、単に視覚的な格好よさだけで映えるわけではない。ハリーの影の黒さがそのまま、相棒を殺された彼の怒りの濃さとも映じるが故のインパクトだ。恐らく犯人側はその影の黒さに脅威を覚え、ジェニファーは、ハリーが背負う光の輝きを見ていたのだろう、とも感じさせる。

ジェニファーがメリーゴーランドの修復という名目で、忌まわしい記憶の現場を訪れるシーンでの、「古いものに手を加えれば心が充たされるわ」という注文主の台詞は、古いもの=過去の清算としての「復讐」と結びつく。最後にレイプ犯にとどめを刺すのも、ハリーの銃弾ではなく、メリーゴーランドのユニコーンの角だった。

(*以下、『ダーティハリー』と以降のシリーズ作のネタバレあり)

シリーズ作に個人的な順位をつければ、「1>4>3>2>5」となる。結局、第一作の神懸り的な天才性を再確認して終わったに過ぎない観さえあるシリーズだが、それでいて、『5』の他愛なさなどにも妙な愛着を感じないでもない。台詞やテーマや場面など様々な所で第一作の反復を試みもした続篇が、結果的には『ダーティハリー』の足許にも及んでいない理由を挙げればキリがないが、ハリー・キャラハンの人物造形の点では、相棒の扱いが似て非なるものである点が気になる。

ハリーが如何に危険にその身を晒しているかを表す身代わりのようにして犠牲になる相棒たち。ハリーの補佐よりも、そっちの方が主な役割とさえ言える。これはシリーズのお約束のようなものだが、実のところ、第一作の相棒は死んではいず、負傷しはするのだが、その後が肝心なのだ。相棒は刑事を辞め、より安全な環境に身を移す。相棒役に殉じはせず、自らと女の人生を考えてハリーの許を去り、しかもハリー自身、その選択が真っ当だと感じているというその苦さ、哀しさ。相棒が犠牲になることではなく、ハリーと危険を共にすることを拒むが故の、ハリーの孤独。自らもその理由が分からぬままに、ダーティな場に身を置くハリー。これが後のシリーズには、理解し継承されていないのだ。

これにはもう、イーストウッドのあの眩しそうな細い目を真似て「Swell」と呟くしかない。ただ今回の『4』の相棒は、あの黒人刑事なのか彼が贈ったパグ犬なのかソンドラ・ロックなのか代わりに調査を頼んだ若手警官なのか、判然としない感はあるが。

第一作ではスクールバスが登場していたが、今回は老人たちの送迎バスを、ハリーがジャックする。これはやはり、ハリーの高齢化も踏まえたセルフパロディなんだろうか。

(評価:★3)

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