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[コメント] トレーニング・デイ(2001/米)

ホイト(イーサン・ホーク)がこの一日でTrainingさせられた事とは何か。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







前半は、アロンゾ(デンゼル・ワシントン)による「狼と闘って羊を守る為に、自らも狼となる」為の訓練が行われるが、後半、アロンゾが自らの身を守る為に悪事に手を染めた狼と化した事を知ったホイトは、アロンゾを抵抗すべき対象として認識しての訓練に入る。「怪物と闘う者は、自らも怪物とならぬよう警戒せよ」(ニーチェ)、だ。

アロンゾは、最初は口さえロクに利いてくれず、仏頂面をしているので(僕も新聞を読んでいる時に話しかけられるのは嫌だけど(笑))、ホイトが彼とコミュニケーションを深めていく過程に、つい感情移入させられる。アロンゾは、ふざけて一緒に狼の遠吠えの真似をしたり、時に真剣な眼差しで「街を知りさえすれば、お前は良い仕事が出来る奴だ」と励ましたり、とにかく兄貴分としての振る舞いが見事で、観客の方でも素直に彼に解きほぐされてしまう。

時折、シークェンスの合間に挿み込まれる、太陽を捉えたショット。徐々に二人の絆が強まっていった果てに、一転してアロンゾの行為に疑問が湧いてきた辺りで陽が蔭りはじめる。アロンゾの「チーム」の男がホイトに向かって「FBIか?」と叫ぶ場面は、街のチンピラが彼ら刑事を恐れるのと同様に、彼ら自身も後ろめたい所がある小悪党なのだと感じさせられる。

強姦魔が、アロンゾが去った後に罵りの言葉を吐いたり、スラム街を訪ねたアロンゾと挨拶を交わしたワルが、アロンゾの背中を睨みながら「調子に乗りやがって」と恨み節を吐くなど、「奴らは俺の怖さを知っている」と言って平然としているアロンゾが、背後から刺し込まれる憎悪の視線に無頓着な様子がさり気なく匂わされている。

強姦されかけていた少女を救っていた事が、ホイトの命を救う。この展開、伏線は、物語上どのような意味があるか?即ち、アロンゾは街のちょっとした犯罪には注意が向かなくなっていたのであり、結局は、散々彼に説得され、価値観を何度も修正させられてきたホイトの方が正しかった訳だ。ここでホイトのTrainingは、アロンゾ的価値観を血肉化していく事ではなく、それに抵抗して、自らの倫理的なボーダーラインを保持する為の闘いへと変じる。

最後にホイトが帰宅するショットで終わっているのは、アロンゾがチンピラに向かって言った言葉、更には、彼に向けてホイトが言った言葉、「ムショと家と、どちらがいい?」を想起させる。そこに挿入される、アロンゾの死を告げるニュース。「彼には妻と四人の子が…」。ホイトは妻子の許に無事に帰って一日を終え、アロンゾは、「悪党が悪党を始末してくれる」という自らの言葉通りに、ロシア・マフィアに抹殺されて生涯を終える。

夥しいエピソードが一日という時間に詰め込まれたこの物語は、「刑事として、家庭人として、一日をどのように送るか?」という問いを展開していたのだと言える。「刑事」という箇所を、自分の職業に置き換えて考える事も、或る程度は可能かも知れない。

(評価:★4)

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