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[コメント] くちづけ(1957/日)

安心して観ていられない映画。
田原木

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 序盤演技過剰な川口浩と野添ひとみに不安を抱くも,野添ひとみの水着姿と歌声によってそんな不安は相当程度減殺された。 特にあの主題歌を歌うシーンは本作品における白眉であり,ピアノが映るまでの移動キャメラは今から確実に何かが始まることを予感させるゾクゾクするような動きを見せる。

 減殺されたといっても不安が全く消え去ったわけではない。 というのも,観ていてどうにも引っかかる点が諸所に散見されるからである。 例えば,あまりにもご都合主義な展開(そんなに簡単に当たれば苦労しない)や,三益愛子を含めた大人の描写の薄っぺらさ,何故か焦って小切手を渡そうとする何も知らないはずの川口浩,加えて野添ひとみが中盤以降何回か使う「愛」という言葉の軽さというか上滑り感などがそれである。 簡単に言えば,安心して観ていられないわけだ。

 もっとも,鑑賞後この作品を振り返ってみて,私はそれらの点も全部ひっくるめて映画全体が,若い恋愛を表現していると感じるようになった。若い恋愛というものはそもそも安心して観ていられないものだからである。果たしてこれが増村保造の意図したことなのかどうかはわからないが(おそらくそうではない),鑑賞後の帰り道,私はどこか納得してしまったのだった。

(評価:★5)

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