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[コメント] 東京物語(1953/日)

小津安二郎の代表作であり、最も日本らしい作品でもある。何気ない言葉や風景に「日本」が垣間見える。「美しい国」とはこういった世界を言うのだ。レビューでは杉村春子に焦点を当てる。
牛乳瓶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







杉村春子演じる志げ。私に強烈な印象を与えた女性である。私は正直、本作における杉村春子が大嫌いだ。そこで、本作の杉村春子の存在意義を考えるため、行動を追っていく。

まず、杉村春子の初登場シーン。笠と東山演じる夫妻が山村演じる息子と共に息子の家に到着。山村の夫の三宅邦子が出迎えて、三人がぞろぞろと家の中に入るがいつの間にか家の中にはこの三人と共に杉村春子がいるのである。これには驚いた。どうやら話の流れから杉村春子は山村の妹であることが判明する。なる程、兄と共に駅に両親を迎えに行ったのか。しかし、三宅邦子が杉村春子を出迎えたシーンは劇中には無い。これは三宅邦子演じる山村の妻は杉村春子に対して好意を持っていないと暗に物語っているのか。そして義妹の原節子が山村の家を訪問すると、本来出迎えるべきの三宅邦子の出る幕は無く、杉村春子が場を仕切りだす。まるで自分の宅かのように、原節子に対して「入りなさいよ」と許可を出す。初登場シーンでの杉村春子の印象はかなり悪い。ただこの程度なら、親戚の中で1人はいるが…

床屋を経営する杉村春子。その夫(中村伸郎)との朝食シーン。「この豆美味しい」と豆を3,4粒連続で頬張る中村伸郎。杉村春子はすかさず「豆ばかり食べるんじゃないよ」と豆の入った皿を自分の元へ奪い、自分が食べてみせる。

場面変わって、両親が杉村春子宅へ泊まりに来る。しかし、忙しさにかまけて両親の相手をせず、尾道から東京へ出てきた両親はずっと家にいる事に。さすがに罪悪の念に駆られたのか、義妹の原節子に両親の東京案内をお願いする。しかし、原節子は仕事をしている身である。急に東京案内をお願いされても…というところであろうが、仕事の休暇をとり、東京案内をすることに。原節子からすれば義姉の杉村春子からたのままれば断れないだろう。恐らくそれを読んだ上での杉村春子の行動。

いつまでも家に両親がいても困るので、両親を熱海へ旅行させた杉村春子。しかし、一日で両親はまた杉村春子宅へ帰って来てしまった。杉村春子の計画は見事に崩れ、床屋のお客から両親を「あの方々は誰ですか?」と尋ねられても、両親と答えずに「ちょっとした知り合いなんですよ」と答え、ご立腹の杉村春子。帰ってきたばかりの両親をどなりつけ、家にいられない状況に追い込んだ杉村春子。笠は古い友人を訪ね、東山は原節子の家へ泊まりに行く。笠は酔っ払い、友人と共に警察官によって杉村春子宅へ送り届けられる。深夜に起こされた杉村春子は烈火の如く、寝ている父親とその友人を叱り付ける。

郷里へ帰った両親であったが、母が危篤状態との電報を受け取った杉村春子。兄と共に、尾道へ早急に行くことを決めた行動力のある杉村春子だが、喪服を持っていくかどうか、既にそこまで気にしている杉村春子。郷里に帰り、母が亡くなると、わんわん泣いていたかと思えば、けろっとご飯を食べる杉村春子。そして、もう形見としてあれが欲しい、これが欲しいと口にする杉村春子。父の居ない間に、「母じゃなくて父が先に死んだ方がよかった」と簡単に口にし、そそくさと東京へ帰った杉村春子

以上が杉村春子の主要な流れであるが、杉村春子がいるからこそ、原節子が映える。逆に言えば、杉村春子がいなかったらこの映画は成り立たない。杉村が本作においての「大人」であり、原が「救い」なのだ。また、杉村がいたからこそ、両親が抱える哀愁も映えた。

結論:杉村春子がいたからこそ、『東京物語』という感動作が誕生した。

(ちょっとひねくれた鑑賞をして、小津監督、杉村春子さん申し訳ありません・・・)

(評価:★5)

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