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[コメント] 誰も知らない(2004/日)

この監督の「リアルさ」というのは「現実感」じゃなくて、単なる「ドキュメンタリー番組っぽさ」じゃないのか。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 これは危険な映画だ、というのが第一印象だった。

 子役に歯ブラシを咥えさせたままモゴモゴと喋らせる。その姿を地明かり風・手持ちカメラ風の映像に収め、つなぎ合わせてハイ出来上がり。まるでテレビの番組改編時に放送される「○○さんちの14人大家族スペシャル!」みたいな映像でもって切々と悲劇を編んだこの作品は、その「リアルさ」において高い評価を得ている。

 だが、これはリアルではない。その映像手法によって巧妙に印象を操作されたフィクションだ。無論、冒頭においてこの映画がフィクションである旨は注釈されているが、作中、台詞回しにおいても照明においても、作り手の「ドキュメンタリーであるという印象を与えよう」という作為が溢れている。

ワンダフル・ライフ』のようなファンタジー作品を撮るなら、その手法はひとつの叙述トリックとして効果を生むだろう。なぜなら観客には、それが完全にフィクションであることを前提に「リアルさ」を楽しむ余裕が残されているからだ。だが、こうした実際の事件をモチーフにしたフィクション作品を撮る場合、このような「ドキュメンタリーっぽさ」は実際の事件の印象までをも大きく左右してしまう危険を孕んでいることを自覚すべきだ。

 実際、巣鴨の置き去り事件はもっと陰惨な結末を迎えている。5人兄弟のうち2人が死に、そのうちの1人の死には長男とその友人たちが大きく関わっていたといわれている。長男以外の生き残ったふたりの幼な子も深刻な栄養失調の状態で発見された。

 この映画は、虐げられた子供たちの生命の力強さや健気に助け合う兄妹愛を描き、ラストカットで「それでもぼくたちはたくましく生きてゆきます」とでも言いたげな後姿を見せる。丸っきり「親はなくとも子は育つ」というわけだ。あろうことか挿入歌には「異臭を放つ宝石」というあまりにも現実と乖離した酷い歌詞まで登場する。

 実際には「親がなければ子は育たな」かったのだ。親に捨てられたことによって彼ら兄妹(特に長男)は「宝石」などではなく「野獣」へと化してしまっていたのだ。そこに、この事件の本質があったはずだ。それがこの家族の「リアル」な悲劇だったはずなのだ。

 是枝裕和監督は巣鴨の置き去り事件に怒りを感じてこの映画を作ったのではなかったのか。ならば問題の本質を世に問わなければならなかったのではないのか。この作品はドキュメンタリータッチの映像によって「この事件ってホントにあったんだよね」と思わせる効果をあげた。だがその作風を選択したことにより、観客の意識を本来問うべき問題の本質からより遠ざける結果を招いてはいないか。

 私はこの映画を、自らの得意とする映像手法に溺れて論点を明確にすることを怠った作品だと感じた。「4人はキツイけど、うちは2人だから何とかやっていけるよね……」とか、「お金さえちゃんと送っとけばこの映画みたいなヒドイことにはならないよね……」とか言いながら子を捨てる親が増えないことを祈るばかりだ。

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柳楽優弥のカンヌ受賞について

 確かに瑞々しい演技であった気はしないでもないが、スタジオセットに強烈な照明の中で同じ芝居ができるかといえば甚だ疑問だ。

(評価:★2)

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