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[コメント] 亡国のイージス(2005/日)

理念の映画だとすれば論点が曖昧だし、活劇映画だとすれば対立軸と戦闘能力が曖昧だし、軍ヲタ映画なら兵器萌え分が足りない。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 私は活劇として見たんですが、2時間の映画でやるには対立の構図がブレすぎるんで緊張感が続かないんですね。敵の恐怖というのは時間が経つに連れて増幅していかなきゃならんのに、ホ・ヨンファにしても副長にしても行動原理が明確じゃないから絶対的な「怖さ」が感じられない。

 怖さで言えば工作員の戦闘力についてもそうで、英才教育を受けた戦闘のプロなんだから日和った自衛官の伍長なんかと対等に渡り合っちゃいかんのですよ。このへんの工作員の「怖さ」、原作では如月については受けてきた訓練の凄まじさで描いてるし、ジョンヒについては《いそかぜ》に乗り込む方法で強烈に印象付けてるんですが、映画としてそれをカットするならやっぱり実際の格闘シーンでその戦闘力を存分に見せつけてくれないと。北の工作員の「怖さ」が実感できるのが集団自決のシーンだけってんじゃ厳しい訓練を受けてきた彼らも浮かばれないですよ。

 この活劇の対立の構図は「圧倒的な戦闘力を持つが人の心がない工作員」vs「戦闘力は低いが根性と《いそかぜ》愛だけは誰にも負けない自衛官」というのが正しい在り方だと思うんですが、どうにも明確に打ち出せなかったように感じます。

 実は私は最初に『ローレライ』をテレビで見て、「こりゃいよいよ邦画も戦争を好きなように料理し始めたか」とにわかに喜びと戦慄を感じながらも、それにしちゃどうしようもない映画だなとガックリしつつ、シネスケレビューを見たらみなさん口を揃えて「原作はいいよ」と言っているもんだからブックオフに行ってみたら「終戦のローレライ」が4冊セット文庫で置いてあり、いきなり4冊も読めるかいなと思ってまずは「トゥエルブY.O.」から入り、これはなかなか面白いじゃないかと「川の流れは」を読み、ようやく昨日、小説版「亡国のイージス」を読み終わってDVDをレンタルしてきたのですが、福井晴敏という人は自分の理念と情念を物語にキッチリ乗せて語れるという意味では今の文壇でもけっこう稀有な作家だと思うものの、アクションシーンの絵としての「キメ」と物語の展開の「キメ」が必ずしも同調しない節があって(具体的には彼のストーリーテリングは構造的に「何かを決断して何か行動を起こす」のではなく「何かが起こってから何かを考えて、何か決断する」という流れが多いという意味で)、「キメ」の断片をつなぎ合わせる作業である「映画化」にはあんまり向いてない作家なんじゃないかと、そんなことを思いました。

 あとジョンヒと如月のキスは原作でも消化しきれてないのに心象表現端折って映像化しちゃったもんだから、そりゃポカーンです。

 それと、中盤《うらかぜ》が撃沈されたシーンで爆発沈没を描かなかったので、もしかしたら自衛隊当局から「護衛艦を沈める描写はやめてくれ」という通達でも出てるのかと不安になりましたが、最後に一応《いそかぜ》が沈んだので、妙に安心しました。

(評価:★3)

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