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[コメント] リンダ リンダ リンダ(2005/日)

まっすぐ前を見て、大きな声で歌う。それがブルーハーツの心。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 メルダック時代、特にファーストやセカンドのころのブルーハーツといえば「中学生レベルの演奏技術」というのが定説で、それはバンドに対する最大の賛辞でもあったわけだけれど、彼女たちが「椎名林檎は3日じゃ無理」と言ってブルハを選んだのはとても理に適った選択だったと思う。弾くだけなら弾けちゃうんだブルハは。だからこそブルハのコピーというのはとても難しくて、「まっすぐ前を見て、大きな声で歌う」という単純すぎるボーカル表現が、ちょっとでもバンドをかじってるとなかなかできない。どうしても癖が出てしまうから。らしいです。知り合いからの受け売りですけど。スンさん、ちゃんとまっすぐ前を見て大きな声で歌ってた。素晴らしかった。

 *

 馴れ合いは好きじゃないから 誤解されてもしょうがない それでも僕は君のこと いつだって思い出すだろう

 ──THE BLUE HEARTS「終わらない歌」

 *

 それにしても、ブルハには若者の不安と焦燥が良く似合う。この映画が特に巧いと思うのは、性格的には天才肌のリーダー格キャラ(香椎由宇)がもっとも演奏の足を引っ張っているという設定。彼女が求心力でありながらボトルネックでもあるという状態がバンド内のバランスの不均衡を否応なく描き出しているし、さらに彼女自身が元カレに世話を焼かれたりチャーミングすぎる夢を見ていたりというアンバランスな人物像を持っている。この「2重のアンバランス」が映画に深みを与えているんだと思う。

 山下はたぶん、人間を掘り下げたところに物語があると本気で信じていて、いわゆる脚本による「神の手」を極力排除しようとしているんじゃないだろうか。そうした創作意識を持った作家はたいへん稀有だし、同年代にそんな作家がいることがとても嬉しいと思う今日この頃です。

(評価:★5)

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