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[コメント] トランスフォーマー(2007/米)

ベタでもいい、ご都合主義でもいい、稚拙でもいい、お子様映画なら正々堂々、愛とか友情とか勇気とか正義とかそういうのを謳い上げなさいよ。この映画を見せられた子供たちはいったい誰に憧れればいいのか。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 子供向けの作品だから脚本なんかどうでもいいというのは大間違いで、ジュブナイルだからこそシンプルで明確なメッセージ性が求められると思うんです。簡単に言えば、男の子たちが憧れちゃうようなヒーロー像というのが不可欠であって、正義と悪の戦いを描く作品ならば正義を遂行する者がその対象となるべきだし、それがロボット作品なら正義のロボットが作品のメッセージを司る存在でなければならないはずなんです。

 ところがこの映画の正義ロボットたちは登場から主人公を困らせるばかりで、徹頭徹尾まるで飼い犬のような描かれ方をする。普段はお茶目でも本気を出せば街ひとつ吹き飛ばすほどの力を持った飼い犬というのはつまり、それは主人公たちにとって都合よく利用できる「兵器」だということです。

 象徴的なシーンがあります。ロボットが「この戦いに俺が負けたらキューブを胸に入れろ、それですべて終わる」と言うシーンです。一見、自己犠牲の精神に富んだ美しいシーンですが、この言い草はちょっと変です。「今すぐ入れろ、もう誰ひとり傷つけたくないから、今すぐこれを終わらせろ」ではなく、「負けたら入れろ」。つまり、勝てばいいということをこの人は言っています。もともと人を傷つけないことを標榜していた彼が散々街を破壊した上に、さらに戦いを志向する。そして勝てばいいと思っている。このへんの思想がとても危険だと感じるのです。ラストシーンとかはたぶん誰が見ても意味不明だから放っておけばいいんですが、このあたりのシーンは意味が明瞭なだけに気持ち悪いんです。

 また、この市街地戦に突入するまでの帰還兵たちの描かれ方にも違和感を覚えました。彼ら兵隊さんこそがヒーローとして描かれているのです。とことんうがった解釈をしてしまえば、この映画は「軍人の勇気を借りて強大な武器を手懐けろ、そして戦え」というメッセージに見えてしまう。この映画の「地球」をそのまま「中東」に置き換え、「正義のロボット」を「米軍」に置き換えてしまえば、アメリカが今まさに行っている戦争をそのまま正当化する内容だと受け取れてしまうんです。他人の土地に乗り込んで無茶苦茶に荒らし尽くしても、勝てばいいんだ勝てば共存できるんだという、非常に都合のいい論法が垣間見えるんです。

 そうじゃない、と誰かは言うかもしれません。だけど私は、少なくとも『トランスフォーマー』の作り手にはそんなことを言う権利はないと思います。子供向けの映画なのに愛とか友情とか勇気とか正義とか、そういうシンプルなメッセージを真正面から伝えようとしなかった彼らには、ジュブナイルを作る資格はないと思うのです。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (8 人)Orpheus[*] TOMIMORI[*] のの’[*] おーい粗茶[*] IN4MATION[*] ペペロンチーノ[*] シーチキン[*] ヒエロ[*]

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