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[コメント] 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ(2007/日)

表現者として生れ落ちてしまった者の苦悩。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 少し前に柳美里も身内の暴露ネタ小説書いて訴訟沙汰になってたけど、大切な人を傷つけてでも表現せずにはおれない天才作家の苦悩というのは往々にしてあるらしく、妹ちゃんを軸にして映画世界を見渡してみるとなかなかリアルにそうした「作家=真人間ならざる者」の苦悩を描き出していたと思う。彼女がマンガを描くのは金のためでも名誉のためでもなく、描かなきゃ生きていけないという表現者としての業のようなものなので、ダンプに轢かれて死んだ両親をマンガにしようとした彼女が陥る自己嫌悪には共感はできなくとも、その痛みを推し量ることはできた。もっとも、作家自身がそういう苦悩を語りだした時点でそれは自己陶酔と紙一重というか自己陶酔そのものであって、受け手はかなり寛容な心持ちを要求されるのだけれど。

 ともあれ物語のフリとオチはしっかり決まっているし、二人姉妹という私たち男衆には計り知れない関係の中に潜んだ心の闇を垣間見る意味でも、面白い物語だった。

 サトエリの芝居は他のレビュアーの方々もおっしゃるように、いまいち表現しきれていないように感じた。ただ、彼女の存在から「女優として成功する可能性」を完全に引ん剥いてしまうと映画監督との手紙のやり取りによって物語の中盤を牽引するミスリードに緊張感がなくなってしまうわけで、この役はすごく難しい役だったとも思う。その意味で、けっこう健闘してたんじゃないかと。

 一方で、女優崩れ、若き天才マンガ家、さらにはコインロッカーベイビーの30代処女という強烈な女3人を相手に回した永瀬の役割はたぶん、精気を吸い取られて枯れ果てましたというところなんだろうけど、よく分からなかったなぁ。遺影が出るまで死んだことも分からなかった。こちらは明らかに失敗しているというか、永瀬さんのやる気が感じられないというか、この人あんまり人相がよくないから汚れ顔で嫁投げたり蕎麦投げたりすると変なリアリティが発生して危なっかしいんだよなぁ。人でも殺してそうな感じが出ちゃう。

 永作は旦那と寝た前後での明らかな変化を目の(しかも片目の)芝居で見せるあたり、妖気さえ感じました。すごい。っていうか、かわいい。けどサトエリも好きです。乳でかいし。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)寒山拾得[*] 煽尼采 TOMIMORI[*] 水那岐[*]

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