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[コメント] クローバーフィールド HAKAISHA(2008/米)

もっと、もっと絶望をくれよディザスター。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 プライベートパーティから一気に未曾有の災害に巻き込まれていくくだりには私もワクワクしちゃったんですが、前フリとなっているエピソードが痴話ゲンカひとつでは弱すぎるだろうと思うんですよ。結果、お姫様と勇敢なダイハード、それに金魚のフンが2匹(含カメラ担当)しか被害者が出てこないので、未曾有の災害が襲ってきたという巨大な絶望感を投影できる人物がいない。災害映画にとっては、観客の抱く絶望感のスケールこそがミソだと思うんです。絶望感が大きければ大きいほど、結末に向けての加速度も大きくなる。その意味で、ダイハードの彼みたいな人物は映画から途中退場していただくような設定であってほしかったと思うんです。「こんな中、アイツはアイツでそういう生き方をした。そして死んでいったんだろうねぇ……」という一エピソードであれば心にも染み入りそうなもんですが、終始、蛮勇のヒーローのみにフォーカスが当たっているので後半には妙な安心感さえ覚えてしまいました。ジェイソンが死んだ!って言われても、ジェイソンって誰だか知らんし。

 これは、決してプライベートカメラだから仕方がないという問題ではないと思うんです。最初のパーティでも、もっと大勢の人物を紹介するだけの時間はあったはずだし、地下鉄の駅のシーンなんて偶然同じ場所に逃げ込んでいた全然知らない人がいたっていいし、そのほうが密室劇としての展開も広げやすいはず。もっとベタな話をすれば、その災害によって幼子を失ってワンワン泣き喚く母親とか、もうトチ狂っちゃう人とか、「あれこそ神の化身じゃ〜!」とか叫んじゃう人とか、街角にいてもいいじゃないよと思うわけです。聞いた話じゃニューヨークは人種のるつぼだそうじゃないですか。災害ってのは人の本性が顕になるそうじゃないですか。そのるつぼを見せいるつぼを。

 さらに言えば「地下鉄の線路の横に部屋があること」や「屋上に飛び移れてしまうこと」、「姫救出後の階段に小さい子が一匹しかいないこと」など危機回避に関する仕掛けにも何の必然性もないので「もうそれならおまえ次第じゃん」ってことになっちゃう。姫を助けに行くのも別にいいけど、それをメインに据えるならまずははっきり「絶対に助けられません」という状況を提示してくれないと、「あれは恐い」という映画の大前提が崩れてしまうと思うんですよ。その大前提が崩れたらディザスター映画とは呼べないと思うんです。「ハンディでそれを撮る」というワンアイディアで映画が成り立つかという問いがあるとすれば、この映画に限っては「否」と思います。

 *

 ちょっと興味深かったのは、発生直後に電気店のニュース映像を挟み込んだこと。ここであれの全貌を見せてしまったのは及び腰だったのじゃないかなぁ。バリバリの他者視点じゃん。このコンセプトでやるならヘリのくだりまでその全体像を見せずに突っ走るのが作家の意地ってもんじゃないかしらね。

(評価:★3)

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