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[コメント] GOEMON(2009/日)

テンポがアップしております。テンポが!
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 かなりシナリオを削り込んだのだろうと思う。前作で苦渋を飲まされた冗長なセリフ群は影を潜め、映画そのもののテンポがすごく良くなっている。それは「展開力を得ている」とか「物語が加速度をもっている」というのとは別なのだけど、テンポが良くなっている。テンポが良かった。テンポが。それだけで飽きずに見られた。というより、むしろ面白かった。幸せな2時間だった。

 あとは悪口しかないのだけど、序盤で玉山の腕を飛ばしたので、「お、今回はちゃんとアクションしてくれるんかい?」と思ったのもつかの間、結局のところ見るべき殺陣はここだけで、あとは斬られてもいない人が血を吹いて倒れていくだけ。処理的に『300』とかぶってくる見た目なので、モブにしろ殺陣にしろ描写が甘いという印象しかない。

 もっとひどいのが走っているシーンで、走っているのに上半身が動かないというのは演出以前の問題で、はっきり言ってこれだけで紀里谷に芝居を撮る素養がないということが明白になってしまっている。セリフは達者な役者陣が力を入れてしゃべってくれるからいいようなものの、動きについては本当にまるでダメだ。動いてない。

 シナリオについても、削り込んだからいいというものではなく、特に史実を担保にして無理矢理納得させてしまうラストの処理は失笑モノと言っていいと思う。言いたいことを伝える話術が、紀里谷には決定的に欠落している。シナセンからやり直せばいいと思う。

 ご自慢のCGも今回は磐石とは言い難い。特にサイゾーと対峙した草むらの造形は悲惨だ。どれだけハイスペックなコンピューターで処理したか知らんが、CGを使う意味がまったく見出せない。かなり重要な位置付けであるはずのホタルの谷もそうで、ロケ撮影に対するアドバンテージがまったく見えない。予算は潤沢にあったろうに、「ロケ+後処理」という方法を許さなかったのは彼のCG屋としてのプライドなのだろうか。だとしたら、そんなプライドは犬に食わせてしまえばいいと思う。

 と、文句ばかりだ。文句しか出てこない。でも『GOEMON』は面白かったんだ。紀里谷にしか出せないテンションというのを、びしびし感じるんだ。だから、“劇場公開映画”というジャンルが創作のモチベーションになるなら、金が集まる限り映画をつくり続けてほしいと思うんだ。脚本も演出も、とてもお客様からお金を取ってお見せするような代物じゃないけど、また映画を撮ればいいと思うんだ。紀里谷と新海誠については、けっこう本気でそう思うんだ。

(評価:★4)

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