コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 戦場でワルツを(2008/イスラエル=独=仏=米=フィンランド=スイス=ベルギー=豪)

そもそもが「バシール」という人物名にすぐピンとくる人のためのドキュメンタリーなわけで……。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 斬新な手法というけれど、史実としてたいへんにひどい話である虐殺事件をポップアートっぽいアニメーションで描いておいて、最後の最後に「でもこんなにひどいんです」といわれても、いやそうでしょうよ、としか言いようのないような、微妙なあと味が残った。たしかにショッキングではあるんだけど、それは90分近くアニメに慣れた目と脳の前にいきなりリアルが現れましたという生理的なショックであって、内容や主張というか、ドキュメンタリーの話術によって与えられたものではないのだ。この種のショックは、どちらかというと映像トリックの部類だと思うわけで、ドキュメンタリー作品に採用するのはちょっとフェアじゃない気もする。

 で、内容的には、ここから何を語るのかが作家のドキュメンタリー作家の仕事ではないのか、と思う。元兵士の映画監督が辛い記憶を呼び戻した、その記憶をどう語り、何を伝えるかというところが観たいのに、この映画は監督が「映画を作ろうと思ったきっかけ」しか描いておらず、結局のところ何が言いたいのか、この監督にとって虐殺とは、戦争とはなんなのか、というのがいまいち伝わってこなくて、物足りない思いだった。

 というのが、ふつうのドキュメンタリー作品としての感想。で、評価は★3。なのだけど。

 正直いって私は、中東情勢とか、ややこしすぎてまったく分からないのである。だから、レバノンやイスラエルでこの虐殺事件がどのように国民に語り継がれていて、どう報道されていて、どう理解され、処理されているのかも全然分からない。なので、本来の意味でのこの作品の、作品としての存在価値が正しく測れないのだ。おそらくは単純な“反戦”ではなくて、もっと特定の何かに向けたカウンターであろうとは思うし、もしかしたらこの語り口、この手法がより正確にそのターゲットを撃っているのかもしれないとも思う。そんなふうに考えると、もう何も言えることなんてないんだよなーと思う。

戦場でワルツを』は決して私の映画ではないし、私に向けられた映画でもなかった。週末の夜の銀座はキラッキラに輝いていて、タクシーと高級車が路肩を埋め尽くしている。そんな街のど真ん中にある劇場でこんな切実な映画を観ても、私には何も言えることなんてないんだと思った。海の向こうでは今日も戦争が続いている。海の向こうでは今日も戦争が続いている。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)IN4MATION[*] パグのしっぽ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。