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[コメント] 涼宮ハルヒの消失(2009/日)

100%ファン向けフィルムで敷居は高い。だけど、劇場内外の熱気は本物だった。
林田乃丞

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 新宿でたまたま終電を逃した日が『ハルヒ』の初日だった。調べてみるとバルトで2時40分くらいの回がある。1時間半以上前に、ふらーっと入ってみたら、席は残り6枚しかなかった。キャパ430人の、バルトでいちばんでかい9番スクリーンが。

 私は『ハルヒ』の熱心なファンではないけれど、いちおう原作の最初のものとテレビシリーズの最初のものには目を通していて、好きか嫌いかといえばけっこう好きな、そういう類の観客である。明らかに他のお客さんとは温度が違うし、「こんな自分が座ったせいで熱烈なファンが追い返されることになるのは忍びない」と、少しだけ躊躇したけれど、結局観ることにした。寒いし、電車ないし。

 で、映画は2時間40分の長尺を飽きさせることなく一気に突っ走ったのだけれど、これはあくまでコアなファン向けの作品なんだろうな、と思う。

 タイトルの通り、主人公のハルヒが“消失”してしまうので、ライトなファンの私からすると「もっとハルヒ見せろ」と思うし、長門が“いつもと違う”ことが物語の軸になっているけれど、そんなに“いつも”の長門に馴染んでいない私としては、キャラクター描写の面で物足りなさが残った。そのほかにも、私程度の知識で1回観ただけでは解らない部分もたくさんあった。

 だけどそれは、あくまでこちらの問題であり、本来この作品が訴求しているコアなファンにとっては「ハルヒがいない」ことがじりじりと渇望感を煽り、「長門が笑う」ことが世界が変わっちまったくらいに衝撃的なことなのだろうと思う。おそらくはリピーターも数多く発生する、魅力的なプロットなんだと思う。

 こういう初心者お断り的な、ただのテレビの延長的な、そういう作品に批判的な向きは少なくない。最近私が入れ込んで「観ろ観ろ」とところ構わず吹聴している『マイマイ新子と千年の魔法』なんかとは、実に対照的な存在だろう。『マイマイ』は明けて日曜日に同じ新宿で「公開宣伝会議」なるイベントを開き、お客さんを巻き込んで「どうしたらお客が集まるのか」とみんなで話し合っていたという。

 *

 映画は、人を幸せにするものであってほしい。そして、映画を観て幸せになる人は、ひとりでも多いほうがいい。そういう思いは、売り手はともかく、少なくとも作り手側には共通したものであるはずだと、そんなことを考えさせられた作品だった。

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 実は私は、本当は『インビクタス』を観たかったのだけど、土曜の夜の新宿なのに、ミラノもピカデリーもオールナイトをやっていなかった。

 とりあえず『ハルヒ』のチケットを取って、上映直前に劇場に戻ると、前回を見たのであろう若い男女があちこちにたむろして、熱心に話し合っていた。真冬の新宿の路上で、白い息を吐きながら上気した表情で「あの朝倉さんが!」「長門は!」と声を張り上げていた。どこか居酒屋にでも入ればいいのに、誰もが時を惜しんで、目をキラキラさせながら映画を振り返って、意見をぶつけ合っていた。

 彼らはきっと、これから何度も『ハルヒ』に通って、特典グッズなんかもらったりするんだろう。つまりは、「角川に搾り取られる」人たちなんだろう。

 だけど、公開前からみんなで楽しみにして、公開初日にみんなで観に行って、上映後はみんなで語り合って。そういう映画館の風景に、久しぶりに出会ったような気がする。その風景は、決して悪いもんじゃなかったと思う。

(評価:★3)

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