アカウント奪取の描写があったにもかかわらず「キングカズマ」がさらっと戻れていたり、ガジェット使いと思われる侘助が「ラブマシーン」によって原発が攻撃の危険にさらされていることを全く知らないなど、不自然・不明瞭な描写も少なくない。だがそれによって全体の魅力が毀損される事はない。きわめて質の高い一夏の物語が出来上がった。

うらやむ経験を得られた陣内家の環境。そしてその大黒柱であり、自分を高みに導いてくれた栄の死を通して健二は覚醒する。その過程がうまい。ベタと言われようがうまい。互いの信頼関係がしっかり構築されている間柄はやはりいい物である。

これで宮崎駿は安心してエコールの森へと隠遁できるだろう。アニメ映画は大きな転換点を迎えた。次作で細田監督はどれほどのハードルを飛び越えるのか、今から楽しみである。

（2009.08.01 ワーナーマイカルシネマズみなとみらい）