コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] アイガー北壁(2008/独=オーストリア=スイス)

ルイーゼ(ヨハンナ・ヴォカレク)に関する設定がぞんざいであるという一点を除けば、良く練られたドラマである。少なくとも「現場」にこだわらなくても強烈な臨場感が演出できる事をこの作品は証明した。アイデアと工夫は重要である。
Master

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ラストでトニーが死に行く様を目の当たりにさせたいがために用意しただけで、さほど興味がないのだろうと思ってしまうほどルイーゼ絡みの描写は甘い。端的に言えばシーンごとにかなり都合よく性格設定をしているように思う。新人とは言えメディアの一員として「特ダネが欲しい」というのは分かるが、一流の登山家がアタックに失敗し、死亡している情報を知っている上に幼馴染という事を考えれば、トニー(ベンノ・フュルマン)とアンディ(フロリアン・ルーカス)にアイガー北壁へのアタックをけしかけるのは説得力に欠ける。特にトニーに惚れているのであれば逡巡する方が自然ではないか。トニーの最期を見てしまった後に「あなたたちみたいな人はもうこりごり」と言わせるのなら、そこに葛藤があるべきではないか。

その他については「安全圏の快楽」を楽しむ気楽な連中と決死のアタックを行う登山家の対比が実に良く描けていた。アンディがトニーを巻き添えにするのを防ぐためザイルを自ら切るシーンなど、登山をテーマにした作品では描かれることがままあるエピソードだが、トニーの立場もアンディの立場もしっかりと説明できており、良かったと思う。

演出に関して残念だったのは、「ヒンターシュトイサー・トラバース」を横断した後ザイルを抜いた事を示したシーン。確かにこの行動が4人の死を確定させたのは事実なので、致し方ないのだが「ザイル抜いちゃいましたよ。抜いちゃいましたからね。」と強調しすぎ。また、音楽が仰々しすぎる。もう少し抑えた方が良いと思う。

厳しく書いてしまったが、山の強さ・恐ろしさ、登頂という形で山をねじ伏せようとする男達の強さ、そして山に翻弄される悲しさを描いたものとして出色の出来であることは間違いない。現場にこだわるだけが能ではない。どこぞの「大物」に肝に銘じて欲しい作品である。

(2010.04.08 横浜ブルク13)

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] セント[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。