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[コメント] あしたのジョー(2011/日)

主役二人(山下智久伊勢谷友介)と丹下段平(香川照之)の造形は確かに一見の価値ありとは思う。だが、ボクシングシーンの高揚感のなさと「どこを削るか」だけのストーリー構築に失敗している様を見る限り、高評価するわけにはいかない。
Master

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あまり原作に対して思い入れがなく、また、作画のちばてつやは「もはやジョーは私のものではない。読者皆さんのものです。」と公言して憚らない方なので、出来に関して悪し様にいう事はありえない事を前提にかなりハードルを下げて鑑賞した。その効果があってか、激怒するという事はなかったが、それでも本編に関してはあまり褒める要素のない作品になってしまっているといわざるを得ない。

最大の問題点は、ボクシングシーンで重要な場面をことごとく編集でごまかしているところである。特に顔面へのヒットを編集せずに見せないのは不誠実ではないか。もちろん馬鹿正直にやっていては、回復に時間がかかり、撮影が遅々として進まないので、ある程度ごまかすのは理解できる。それでも、あれだけビルドアップなり減量なりさせておいて重要なパンチのシーンをスーパースローにしたり上部のライトへのパーンに徹底させてしまうのはどうなのかと思う。そのためかボクシングシーンを観ていても全く高揚しないのである。カウントの基準が正直はちゃめちゃなのは言うに及ばず、過去、ロッキーミリオンダラーベイビーといった作品があるにもかかわらず、この体たらくは酷い。

ストーリーにおける問題点は葉子(香里奈)がからむエピソード全般である。どうも、映画化にあたりあえて作ったエピソードが多いようだが、その効果はかなり疑問である。端的に言って、力石編までという今回の映画化であれば、力石と丈のエピソードに限定してしまえば良い。力石が少年院に入っていた理由や、葉子の幼少期のトラウマ話など丈が劇中言うようにどうでもいい話なのである。

どや街の人々を丈の応援に引き込むためと、葉子の過去の清算を目的にウルフ金串戦を使っているようだが、安藤洋司(杉本哲太)というキャラをあえて作るのであればどや街の再開発をもくろむキャラはこちらにすればよいし、金串戦の性格を力石戦前の査定試合にすれば特に違和感なく組み込める。香里奈の演技レベルも相まって、葉子は劇中邪魔でしかない。佇まいはそれなりに絵になっているだけに、使い方を間違えている印象である。

上映時間も131分と必要以上に長いのが難点である。上記指摘の箇所など削れるところはもっと大胆に削るべき。ストーリーが面白いのは分かっているのだから、どこを削るかだけだったはず。にもかかわらず、盛り上がりに欠ける作品になってしまったことは大いに反省していただきたい。

良かったのは冒頭に上げたとおり、主役二人と香川の「頑張り」である。だからこそ、そこに絞ったプロモーションは正しい。まぁ、そういう事なので原作をこよなく愛されている方は、菩薩の心境でご覧いただければと思う。

(2011.2.11 TOHOシネマズ上大岡)

(評価:★3)

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