コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 悪人(2010/日)

悪とは何か、悪人とは何か
paburo57

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







映画「悪人」を観た。深津絵里がモントリオール国際映画祭で受賞したため大きく取り上げられている。殺人を犯した青年と出会い系サイトで知り合った洋服店勤務の女性。二人は互いの孤独な想いを埋め合うように惹かれ出逢ってしまう。人は出逢いにおいて一瞬でわかり合えることもあるのだ。

しかし、青年はその前に出会い系サイトで知り合った別の女性を殺してしまっている。肉体労働者の青年を馬鹿にしてお金を要求する一方、老舗旅館の御曹司の大学生を追いかける女性。

老舗温泉の御曹司の大学生は殺された女性を車から蹴り落とし、峠道に置き去りにする。

殺された女性の父親は大学生をスパナを持って襲う。

犯人の青年は洋服店勤務の女性に全てを話し自首しようとするが女性は一緒に逃げようと言い二人は逃げる。

殺人犯の青年を育てた祖母は夫の介護に通う。そして健康食品の実演販売の被害に遭い高額で無理矢理商品を買わされる。

マスコミは犯人の青年の祖母にたいして暴力的な取材をつづける。

善悪と人は言う。しかし善も悪も価値判断。それは常に誰にとっていいか、誰にとって悪いかという問いをはらんでいるのだ。

善悪は相対的な価値であるために人間社会は法律という価値判断体系を作った。しかし「ひと」としての善悪は一体何を基準にして測られるべきものなのだろうか。そんな問いをこの映画は観るものに投げかける。

深津絵里が受賞したことで脚光を浴びているが、むしろ殺人犯の青年を演じた妻夫木聡に注目する。幼くして親に捨てられ肉体労働で身体を酷使し祖父の病院の送り迎えをし寡黙で文句も言わずに毎日を送る青年。そんな青年が殺人を犯し、愛する人に出逢い、殺した女性の命に自分の命に目を向けていくさまを、そして、最後に愛した女性の幸せを願う、ギリギリの愛の姿を寡黙に演じた力はただものではないものを感じる。

そんな青年を思うとき、私は映画「タクシードライバー」でロバート・デニーロが演じた青年を思い出す。デニーロはアメリカの都会の孤独な青年を演じたが、妻夫木は都会の陰で社会の片隅に追いやられた孤独な日常の永遠を生きる青年を演じた。その存在に共通するのは閉塞感と孤独なのだ。

悪とは何だろう。悪人とは何だろう。生きるとは何だろう。出逢いとは何だろう。そして幸せとは何だろう。そんな事を考えさせられる、秀作であった。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。