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[コメント] それでもボクはやってない(2007/日)

作り手の明確な目的意識が結実した作品として、その存在価値は大きい。広く世に問う告発目的というより、観客一人一人に感じて考えて欲しい、という監督の方向性が一貫して貫かれている。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







キャスティングや説明的シーンはそれなりに段取りっぽいが欠点ではない。それ以外に二箇所、惜しいと思った部分があった。

まずひとつは、主人公はなぜ扉に挟まれた上着を引き抜こうとしたのか、というくだり。この謎の提示方法はとてもいいと思うのだが、解き方がよくない。自分の身に置き換えてみるとわかりやすいが、降車する予定の駅で逆側の扉が開く(と思い込んでいる)状況で、服が挟まれているという状態はかなりのストレスであり、この理由を即答できないのは不自然だ。しかしながらこの謎はちょっとしたトレインミステリのようで捨てるには惜しい。そこで、主人公は弁護士にも副検事にも理由を言った、ということにして、観客にだけその場面をカットしたらどうだろう。副検事が起訴を決めた理由は他になんとでも見つけられる。真相が徐々に明らかになっていく法廷で謎解きをして見せることで、主人公寄りの見せ場を作ることができる。

もうひとつは、エンディング、裁判長が判決理由を述べるくだり。懲役4ヶ月、執行猶予3年というものだが、容疑を否認し反省の色なし、と断罪しているにもかかわらず、執行猶予をつけた理由について語り始めたところで、主人公のモノローグとクロスフェードしてしまい、内容が不明になってしまうのだ。この執行猶予は、上から目線のお目こぼしのような気がしたのだが、もし本当にそうなら、なおいっそうこの裁判長の傲慢さ、狡猾さを強調する効果があったのではないか。執行猶予がついたんだから控訴するんじゃねえ的な、言葉にならない恫喝すら含まれているのかもしれない。そうしたニュアンスを裁判長の口から読み取る機会を与えて欲しかった。

ともあれ、遮蔽板を使った空間演出や、セミドキュメンタリータッチのカメラワーク、瀬戸朝香の瑞々しい葛藤といった細かい工夫もいいし、なにより舞台演劇っぽくないので見ていて引き込まれた。ラストの、暗転して「控訴します」はちょっとダサいと思ったが。

(評価:★3)

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