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[コメント] アイアンマン(2008/米)

これはテーマではなく、キャラクターとシチュエーションの映画である。ここに漂うユーモアのセンスはハワード・ホークスのコメディのように知的な含み笑いを誘うものであり、それはひとえに役者の芝居の豊かさによってもたらされている。
shiono

**ネタバレ注意**
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この映画を世界情勢と絡めて見たりすると辟易する部分もあるだろう。実際、序盤のアフガニスタンは仇役の造形も含め、額面どおり受け止めてしまうとはっきりいってくだらない。異郷の地の洞窟での試作品が、自宅のガレージで大馬力のカスタムカーをDIYするノリと大差ない。これがアメリカ人だよなぁと笑って見るのが吉だと思う。

恣意的に政治に対し無責任を貫く決意は、そもそも主人公をロバート・ダウニーJrに据えたことに顕著に表れている。そしてその彼のチャーミングなキャラクター設定が明朗であるだけに、結果的にすべて許せてしまうのだ。加えて、秘書役のグィネス・パルトロウがとてもよい。頭がいいのか悪いのか、とにかく若々しくかわいらしく、コメディエンヌの軽妙さで画面映えしていて適役だった。

この二人の芝居では、ダウニーの胸に埋め込まれた動力源をアップグレードするシーンが印象的だ。胸部に手を差し込みケーブルを引き出す比較的長めのテイクには、ユーモラスで温かな情感が漂っていた。ここに、アメコミヒロインとしての、パルトロウ演じるペッパー・ポッツの立ち位置が現れている。

積極的なオフェンスではなく、敵から攻め込まれやすいウィークポイントでもなく、その中間の位置に身をおきながら、知らず知らずのうちに主人公を助けている、それがペッパー・ポッツの役どころである。実際、交換された旧式の動力源はスタークの窮地を救うことになるのだし、クライマックスで一撃必殺のボタンを押すのも彼女なのだ。

ジェフ・ブリッジズのオフィスから機密情報を盗み出すシーンもよかった。基本を押さえたジョン・ファヴローの演出と、それに応えたパルトロウの演技が、何一つ奇抜なところがない対面の会話シーンを生き生きとしたサスペンスに見せている。

アクションシーンでは、終盤の、ミニバンを持ち上げるアイアンマンと乗客の切り返しショットが乗客(車内)目線で構成されているのがおもしろかった。スペクタクルのスケールは大きくはないものの、アーマーを装着した状態のダウニーの顔と声を積極的に見せる演出のお陰で感情移入も容易だ。それはつまり、トニー・スタークとアイアンマンが表裏の関係ではなく、人格が変化しないヒーローであるということだろう。だからラストカットで彼が思わず宣言してしまうのだ。それがなんだか微笑ましい。

(決めの台詞でオチになるところで「エンドロールの後に続きがあります」の字幕はタイミングが悪すぎ。)

(評価:★4)

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