[コメント] ベンジャミン・バトン 数奇な人生(2008/米)
事象を描くことにはそれなりに長けていると思うが、フィンチャーにヒューマンドラマは無理。育ての母タラジ・P・ヘンソン、タグボートの船長ジャレッド・ハリス、そして極めつけティルダ・スウィントンという役者たちの芝居が生殺しだ。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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ブラッド・ピットという俳優、およびこの奇想天外な設定に振り回されまいとするあまり、彼のキャラクターを淡白に抑制しすぎていると思う。ディープに掘り下げないのならもっとユーモラスであってもいい。
どうにも愛しがたいピットのキャラに加え、せっかく良いと思ったシーンが持続せず、ピットのヴォイスオーバーや現在進行形の老ブランシェットのカットインで細切れ感も高い。時系列の積み重ねによる観客の擬似的歴史体験は重厚に思えはするが、特筆すべき見せ場も自分が見る限り三箇所しかなかった。
(幼デイジーとのタグボートデートですれ違った客船、Uボートとの海戦、アステアとロジャースなら踊り出しそうな、公園の石造り東屋でのブランシェットのダンス。)
終盤のパリ、この映画の中では異彩を放つ演出によって病床に伏したケイト・ブランシェットの顔に傷がつき、それに呼応するようにピットの顔から皺が消えて以降は、フラッシュによるモンタージュで描かれる二人の人生が急速に閉じていってしまう。スティーブ・マックイーンやアラン・ドロンの映画のようなヴィジュアルはつかの間の楽しみであったが。
終幕にカトリーナ襲来を据えたほどにはクレシェンドのフィナーレとはならず、この尺この舞台装置から期待したハリウッド的な饒舌さが感じられないのは残念だった。
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