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[コメント] フェイクシティ ある男のルール(2008/米)

この映画に足りないものを列挙することはたやすい。顔面に寄ったクローズアップの会話劇も大画面で見るには辛く、テレビドラマ以上劇映画未満かと思いきや、シナリオとキャスティングのケミストリーが終盤に爆発する。通好みの逸品。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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説明を排除した滑り出しは、多少の詰めの甘さを残しつつさほど悪くない。スタンドプレイのキアヌ・リーヴスと、多弁なフォレスト・ウィティカーの職場事情は、多くを語らずとも画で見せてしまう雰囲気作りがなされている。台詞は月並みなのだが、同僚刑事たちの面構えが見ていて飽きないのだ。

殊に内務調査部のヒュー・ローリー登場シーンがいい。重ねてリーヴスのガールフレンドも顔を見せ、脇のキャラを手際よく紹介している。その上でテリー・クルーズ演じるかつてのパートナーやら、不慮の死を遂げた妻といった人物像が小出しに語られていく。私服のリーヴスに対して制服のクルーズという対比は過去の確執をヴィジュアルに示していて、ミステリーの掴みとしても簡潔だ。

同じく内務調査部に属しながら、やがてリーヴスと行動を共にするクリス・エヴァンスもいい。観客は、なぜこの二人が相棒になるのかをうまく説明することができないだろう。すでに冒頭から提示されているキアヌ・リーヴスのマジックが徐々に効き始めるのもこのあたりからだ。

例えば、クリント・イーストウッド(および彼の映画の登場人物)は、強い照明を浴びて出来る光と影、この陰影がすべてを支配する世界の住人たり得ているのだが、リーヴスの特質は、このような陰影を生み出さない透明性にある。いうなれば、エヴァンスは己のために行動しているのであり、その動機はあえて言うなら好奇心といった程度のものである。

そう、リーヴスは、行動原則というものを持たないキャラクターなのだ。どのような意思に基づいていかなるアクションを起こすのか、そうしたモチベーションは彼に付随するものではなく、ただ物語の推進力に受動的に身を委ねるだけ。そうしたスクリーンペルソナを持つ稀有な役者、それがキアヌ・リーヴスなのである。

何かを感じたり、思ったりする主体は観客なのだ。リーヴスはそうした喜怒哀楽を、己の身を透過させて、私たちにダイレクトに与えてくれる。この純粋な透明性をいかに作品に生かすことができるのか。これがリーヴスをキャストした際に最も重要になる命題である。

一方で、どんな役柄でも基本的に直球勝負というのがフォレスト・ウィティカーという俳優だ。人間味溢れると言ってもいい。そんな彼の複雑怪奇で抽象的な弁論が最後にある。汚職、腐敗、闇の権力といったレッテルを超えた、いうなれば人間存在の業といったものがやるせなく匂い立つ。そんな彼をリーヴスは撃ってしまう。もはや人間ドラマの枠には収まらない異常な事態である。これはかなりの驚きであった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)ロープブレーク[*] サイモン64[*] セント[*]

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