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[コメント] マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと(2008/米)

新聞の連載コラムという語り口の良さをうまく映画に適用している。主人公の主観描写であること、扱う時間の長さ、そして普通の日常生活に潜む驚きの瞬間を鮮やかに切り取って見せるさりげない洗練に満足した。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アメリカ映画で貧相な主人公など見たくはないだろうから、この作品の主人公一家も、平凡よりはツーランク上くらい。観客から羨望を受けるような暮らし向きなのだが、しかしそこには終始共感を呼ぶ親しみ易さが漂っている。

それは夫婦のキャラクターにもよく出ていて、オーエン・ウィルソンは基本的にサラリーマンでかつ家庭人(対比として、友人である孤独な独身ジャーナリストがエリック・ディーンによって演じられている)、妻にはいい意味でテレビ的スケールの女優、主役なのに芝居が大きくならないジェニファー・アニストンがキャストされている。

そして犬だ。ペットとしてラブラドール犬を飼うということ自体はなんの捻りもないプロットである。とりたてて名犬物語というわけではない。つまりは素材ではなく見せ方、料理法の上手さを味わう映画といえる。

本作のハイライトは子どもが授かるくだりだろう。最初の妊娠が流産に終わったときのアニストンの無言の演技は、それまでのやんちゃなマーリーの騒々しさとの落差があってしんみりしたし、第二子出産以降、アニストンと子ども達、ウィルソンとマーリーというふうに一家が分断されてしまうエピソードもよかった。

このあたりからウィルソン+マーリーという男同士の関係性が深まり、終盤はマーリーの人格(?)がウィルソンと重なるように描かれているのもいい。どこか男性的な寂寥感がよく出ていた。

マーリーが危篤のとき、執筆コラムをまとめたスクラップブックを、アニストンが懐かしく捲るシーンがある。「あなたを知る5分間」と彼女が呼んだこのコラム記事の積み重ねは、そのまま本作の語り口と重ね合わせられる。素敵なスクラップブック映画だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)モノリス砥石[*] りかちゅ[*] G31[*]

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