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[コメント] トランスフォーマー リベンジ(2009/米)

前作から二年という短いスパンだからまだ新鮮味は失われておらず、基本的に同じことの繰り返しでよいのだ。だがそれにしてもまず脚本がいいし、マイケル・ベイの演出も堂に入っている。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私は前作を劇場で見、DVDリリース後には三度ほど再見したが、その巧さには何度となく驚嘆させられた。ハリウッドのアクション大作の押さえのポイントは今も模索中だが、それでも以前よりは多少なりとも見慣れてきたと思う。映画というのは、そもそも初見では味わいつくすことはできないものだが、それにしても皆さん、この映画の豊潤さを見落としてはいないか。

以下、長くて読む気せんわ、という方には

(1)ジョン・タトゥーロの出し方がうまい

(2)ラブーフとオプティマスの絆が主軸

(3)ラブーフとフォックスの恋愛関係もよく描けている

と述べておきます。

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ラブーフとフォックスのダイアログは導入部の電話の会話も含めてエモーショナルでセクシーだ。フォックスが、黒のライダースーツから白のドレスにトランスフォームしてからのキスシーンなど、サウンドトラックの良さも手伝って、恋愛初期のむせ返るような色香に溢れている。

ケヴィン・ダンとジュリー・ホワイト演じるラブーフの両親も前作同様に魅力的だ。この夫婦のちょっとエロい会話、息子の大学寮にまで揃って付いてきてしまう仲のよさ。大麻(あのビニール小袋のカエデのような葉っぱのイラストでわかるよね)でハイになったホワイトは、ハワード・ホークスの『モンキー・ビジネス』のようだ。その後のラブーフもそれに輪を掛けて超ハイテンションだが、しつこくなりすぎないようにシーンをあっさり打ち切っているのもよい。天文学教授のようなその場限りの脇役の使い方も優れている。

バンブルビーはどちらかというと忠犬のような扱いだが、ラブーフを誘惑する女子学生、イザベル・ルーカスへの仕打ちなどはユーモラスだ。前作で戦友となったフォックスへのシンパシーを感じさせる。そのフォックスの職場兼自室の造形は、四駆のラジコンカーも呆れる散らかり方だが彼女らしさにあふれていて、もっとじっくり見たかったところ。尺は二時間半、もう少し膨らませたかったエピソードも多くあったことだろう。

中盤の山は、ラジコンカーを捕獲したフォックスがラブーフの大学に訪れてから、『ターミネーター3』あるいは『キャリー』のような美女ディセプティコンとの戦闘、そしてオプティマスの白兵戦に至る一連の流れだ。

緑あふれる森の中での死には演出上の工夫がある。ラブーフは戦闘の端緒で「オプティマス!」と叫び、その後倒木の根に隠れ、彼らの戦いを息を呑んで垣間見る。隠れたラブーフを二度目に捉えたショットで、彼はオプティマスの戦死を目の当たりにするのだ。声を失うとはこのこと。死を目撃して絶叫を被せてしまったらそれは子供向けの演出だ。予告編を見たときはそれを懸念していたが、さすがにそこはうまく処理している。

その前の段階、オプティマスがアメリカ軍と連携した戦闘後のブリーフィングでの会話、あるいはバンブルビーがラブーフを墓地まで連れて来て、力を貸して欲しいと懇願するシーン(「我々は君が思っている以上に君を必要としている」)、といった心理描写の積み上げがあっての彼の死である。ラブーフは心象的にオプティマスへと傾倒しているのだ。オートボットのどのメンバーに殉死というイベントを科すかによって、ラブーフの心理と行動規範は変化するだろう。

後半の(そしてトータルで見ても)最も大きな収穫は、ジョン・タトゥーロの出し方だろう。なんと意外性のある再登板。昨日の敵は今日の友といったチームワークの演出。鍵となる古代プライム文字の情報を持っていておかしくない人物設定。この出し方をしたいがために、オープニングの段取り(大昔から人類はディセプティコンと接触していた)があったのかとすら思ってしまった。

そしてさらに、スミソニアン博物館でのジェットファイアとの邂逅、これが後半の山だ。このすこぶる魅力的なロートルが、目覚めたとたんに英語を喋ったり、オートボット軍かディセプティコン軍かを選択するのは個人の自由、などと寝耳に水の裏事情を吐露したり、挙句にはスペースブリッジなる技術で皆をエジプトに「ジャンパー」させたり、というのはご都合主義ではなく、大胆な開き直りと受け取った。

このエジプト編での、それぞれの立役者が一箇所に集結するというそのプロセスから、丹念に見せていく組み立ては上出来だ。ラブーフのルームメイト役のラモン・ロドリゲスも、タトゥーロとのコラボで魅力が増してくる。彼らの隠密行動は、かくも短い間によくもこれだけ矢継ぎ早な展開を、という面白さに満ちている。『アラビアのロレンス』風なビジュアルも印象的だ。また、ジョシュ・デュアメル(レノックス大尉)を主軸とした軍の組織構造も簡潔かつ的確に描いていて、とりわけ現場贔屓の切れ者将軍がハイテク本部を仕切っているのもいい。

そして、マイケル・ベイは本格的な戦争モノをやりたいのではないか、と思ってしまった戦闘シーンにおいて、ラブーフとフォックスがなかなかオプティマスの元に近づけない、というこの距離の演出、これがまたいい。単なるもどかしさだけではない、生身の人間が丸腰で移動するということが、ロボット同士の戦いを背景に押しやるだけのドラマ性を持ちうるということなのだ。

だがあと一歩のところでラブーフは心肺停止に陥る。親しい人々が、横たわった彼のその顔を祈るような気持ちで見下ろす。ここで両親を出してくる衒いのなさは、脚本の布石に裏打ちされている。この二人もまたニセモノなんじゃないか?というスリルが演出されているのだ。

ここでラブーフの立場はオプティマスのそれに反復転化される。今際の際で見た、先祖プライム達のビジョン。息を吹き返したラブーフが、今度はオプティマスの心臓に鼓動を取り戻す。繰り返される墓=先祖崇拝のモチーフも効いている。ここでオプティマスに力を与えるのが、ジェットファイアという「異部族」であることも面白い。ワイアット・アープにジェロニモの心臓を移植するようなものだ。これは強い。

首がもげる、片目を焼くといった残虐な描写も、あのメカの造形だからこそ成り立っている(「キンタマ」は笑えた)。その上でキャラクターの死と再生をどう演出するか。単純な擬人化だけではない、ロボットたちのオリジナリティ溢れる身体性と精神性の構築に関しても、また一歩進化したのではないだろうか。

(評価:★4)

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