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[コメント] 続・激突! カージャック(1974/米)

ゲッタウェイ』と並んで大好きな七〇年代夫婦映画。むろんペキンパーのそれとは比較にならないほど幼稚な夫婦像だが、そこが楽しい。しかし、これはやはりまぐれの作ではないか。というのも、スピルバーグがこれほど豊かな笑いの感覚を持っているはずがないからだ。スピルバーグの作品暦で最も笑える映画。
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笑える箇所とはたとえば、老人の危なっかしい自動車運転。ゴールドスタンプに対するゴールディ・ホーンの執着ぶり。同じくホーンの尿意芝居。シュガーランドへの道中で訪れた町においての野次馬との心温まる(?)交流(仔ブタのプレゼント!)。夫婦と巡査にインタビュー取材を試みるラジオ局バンの豪快な事故。このように書き出してみると、この程度のことならスピルバーグはほかの映画でもじゅうぶんにやっているような気がするが、結果としてそこでは笑えないことが多い。『続・激突! カージャック』の喜劇演出だけが不思議と素直に笑いを喚起する。また、人質となる巡査マイケル・サックスがホーンとウィリアム・アザートンの若夫婦に次第に好もしさを覚えていくという定番だが微妙な感情演出の成功ぶりも、スピルバーグのパブリック・イメージには必ずしも含まれないものだ。しっかりと自動車内に幸福な時間を生み出せているから(ホーンとサックスが写真を見せ合うシーン!)、能天気でさえあった物語がラスト・シークェンスで急激にニューシネマ的な悲劇へと傾いていく落差も効いてくる。光り輝く水面を逆光の光源としてサックスのシルエットを浮かび上がらせたラストカットは、瞳に焼きついていつまでも忘れられない。中古車センターから見るドライブイン・シアターの無音アニメ(ワーナーの「ロードランナー」ですね)にアザートンがアテレコをするシーンも、スピルバーグの仕事とはにわかに信じがたい複雑な情感を獲得している。

空間演出の点で最も見るべきところを持っているのは、その中古車センターにおける早朝の銃撃戦シーンだろう。カット割りに違和感を覚えるところもあるが、空車が居並ぶという特殊な空間を活かした面白い銃撃戦だ。そこに警察ヘリコプタからの空撮を挟み込んでくるあたりはさすがスピルバーグと思わせるカット構成で、自動車が炎上してもいることからミニ『』といった感じも覚える。

警部ベン・ジョンソンは「この事件で死者を出したくない」などと云う人情派のキャラクタのようで、しかし決して『パーフェクト・ワールド』のレッド・ガーネット署長(クリント・イーストウッド)ではなかった、という点も却って現代的だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)煽尼采 ナム太郎[*] ぽんしゅう[*]

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