もちろんシーンごとに出来・不出来の差はあるだろうが、どのシーンどのショットにも「映画」の呼吸がある。現実と虚構、実写とＣＧ、ロケーション撮影とセット撮影が渾然一体となって映画をかたちづくっている。そこにあるものを一言で云うならば、それは「自由」だ。隅々まで計算され作りこまれたこの作品世界を人は「箱庭的」と形容するかもしれないが、しかしそこにあるのはどこまでも自由で開放的な空気だ。それは単に海という地球上で最も開放的な空間を舞台にしているからではない。ウェス・アンダーソンの演出がすべての瞬間において「あなたたちはこの映画から何を感じてもよいのです」と映画を私たちに開放しているのだ。この映画が何を云いたいか分からない？ 当たり前だ。この映画は何も云っていない。あるいは、何もかもを云っている。真の「映画」とはそういうものだろう。私は完全に打ちのめされた。