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[コメント] 生きものの記録(1955/日)

開巻数百秒で満腹になる濃厚芝居。三船敏郎の「眼鏡」が面白い。『生きものの記録』と聞いてまず脳裏に浮かぶのはあの眼鏡のイメージではないか。そういう映画は良くも悪くも強い。しかしワイプ濫用はここでも映画から厳格さを奪っている。溶明溶暗すら排してカット繋ぎに徹した小津の厳格さとは比べ物にならない。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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「原水爆の恐怖」と「狂気/正気」の二主題の複合ぶりが存分でない。果たして三船は狂っているのかいないのかというサスペンスは決して解消してはならなかったはずだ。あのようにラストで三船を類型的な仕方で狂わせてしまっては、やっぱり三船のほうがオカシイんですね、という話になってしまって「原水爆の存在する世に生きて正気を保っていられるほうが異常なのではないか」という言説が成立しない。中村伸郎の台詞がいかにも取ってつけたように響く。しかしこのラストシーンの「階段」の捉え方などはよい。三好栄子が笑っている「写真」の画面など異様な造型が目を引く箇所も複数ある。

三好と青山京子は最終的に三船に賛同するが、それは論理の帰結ではなく情に流されているだけというあたり(もっとも、「現状では原水爆の脅威が及ぶのは確実である」「安全なのはブラジルのみである」という大胆な前提を受け容れさえすれば三船の論理に破綻はない)、これを「家族」の映画として見る見方も許容されるが、その場合、家族や妾(およびその家族)の描き分けがじゅうぶんでないという憾みが残る。作劇上の役割分担を整理すれば登場人物の数はもっと絞れる、あるいはもっと効果的に登場人物を配置できるということ(cf.『東京物語』)。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Myurakz[*] 緑雨[*]

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