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[コメント] どん底(1957/日)

俳優部の充実度は黒澤でも屈指。三船敏郎山田五十鈴のスーパースター対決はむろん見ものだが、脇役好きにもよだれが止まらない映画だ。田中春男三井弘次左卜全東野英治郎藤原釜足三好栄子上田吉二郎千秋実! そして映画俳優としてはまだ駆け出しながら既に面白すぎる中村鴈治郎!!
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これは黒澤にとっての「扉」の映画、つまり「人物の出し入れ」の映画だと云うこともできるだろうが、私にとってはまず何と云っても三井と田中を堪能する映画だ(ついでに根岸明美も好きになる映画)。誉れ高きとんちきセッションのグルーヴもリズム・セクションの田中と旋律を奏でる三井の高度な個人技なくしては成立しなかっただろう。写っているカットの数と台詞の量から云っても、前半は田中、後半は三井が主役といった印象がある(ひいき目)。

美術も大したものだ。文字通り傾いた長屋の造型。ティム・バートンビッグ・フィッシュ』『チャーリーとチョコレート工場』に登場するボロ家屋にも遠く通じる「平行四辺形に歪んだ戸」という漫画的発想をリアリズムで、かつ「人物の出し入れ」の映画の成立要件たる「勢いよい開け閉め」にも耐えるべく設計されているというのが凄い。

 ところで。これはマルチカメラ撮影がよく効果を上げた作品としても広く知られているそうで「へえ」と思ったのですが、私にはそのマルチカメラの原理というか仕組みというかがよく分からない。いや、分かるんですけど、つまり、照明はどうなってるの? ということ。複数のカメラのどの画を使っても大丈夫なように、全カメラにバッチリ合った照明が設計されているということでしょうか(しかもほとんどディープフォーカス)。もちろんそういうことなんでしょうけど、それってめっちゃ大変じゃないんですか? そうでもないのかな。加えて、当然どのカメラからもスタッフや機材が見切れてはいけないわけですし。編集時の選択肢が多くなるぶん撮影時にカメラが複雑な動きをしなくて済むという面はあるかもしれませんが、それでもスタッフの苦労は半端ないと思います。

(評価:★4)

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