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[コメント] ヒストリー・オブ・バイオレンス(2005/米)

クローネンバーグの『許されざる者』。このカナダ人監督によるカナダロケ映画が本質的に「アメリカ映画」であるのは製作会社の国籍の問題ではむろんなく、これが『捜索者』や『ミュンヘン』のように「家に帰ること」の映画だからだ。私たちは「家」に帰らねばならない。家族がそれを受け容れるかは二の次である。
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やはりオープニング・シーンの凄まじい緊張感が白眉だろう。クローネンバーグの新作というだけでヴィゴ・モーテンセンが主演であることも知らずに劇場へ赴いた私は、この二人組の犯罪者が主人公なのかと思ってしまったほどだ。後にこの二人はただの端役に過ぎなかったことが明らかになるのだが、こうした端役に至るまで俳優たちはほとんど完璧な仕事をしている。

空間の選択という点ではモーテンセンが初めて暴力を行使する「ダイナー」と二度目のファック・シーンの「階段」が優れている。とりわけこの後者のシーンの情感はもっぱら階段によって支えられていると云ってもよい。行為の後にマリア・ベロはモーテンセンを置いたまま立ち去るが、このときベロは階段を「上る」。「行為→立ち去り」というこのアクションの流れが水平の平面上で行われていたら、あるいはベロが階段を「下る」という形で行われていたならば、端的にこのシーンは失敗に終わっていただろう。些細かつ初歩的なことではあるが、ここでのクローネンバーグはこうしたところでミスを犯していない。映画から緊張感を奪うものとは、まず演出のミスである。

一方で二度に及ぶファック・シーンやウィリアム・ハート一味壊滅シーンなど、底部に流れる「笑い」の感覚にもクローネンバーグの演出家としての成熟が見て取れる。殺人を「技術」として描いているのもよい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)disjunctive[*] DSCH[*] けにろん[*]

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