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[コメント] 4ヶ月、3週と2日(2007/ルーマニア)

何がよいかと云うと、アナマリア・マリンカの「金髪」が決定的によい。画面はリアリズムを装いつつも審美的に実によくデザインされている。一歩間違えればそれは「厭らしさ」に堕しかねないものだが、マリンカの金髪がそれを救い、かつ画面の水準を一段高めている。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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よく云おうと思えばいくらでもよく、悪く云おうと思えばいくらでも悪く云える、というのは何もこの映画に限ったことではないが、たとえば恋人の家での食卓シーンなんてある意味では「退屈」なのだが、その退屈さは演出が目指したものであって、マリンカの顔面は「心ここにあらず」をよく表現している。要するに、そこに限らずムンジウの狙いはほとんどことごとく成功しており、問題となるのはその「狙い」自体をよしとするか否かということだろう(それに関しては、私自身は「狙いそれ自体は別によいと思うし、実際面白いのだけれども、時おりその成功ぶりが少々鼻につく」とでも云っておきます)。

ところでこれはほとんど放言に属する事柄になるが、とりあえず述べておこう。「顔面」への執着ぶりや夜間シーンの暗い画面の質感はデヴィッド・リンチを髣髴とさせるなあ。などと我ながらいいかげんなことを思っていると、不意打ちに近い形で『イレイザーヘッド』な胎児凝視ショットがやってきたものだから、リンチの影響というのも案外ないでもない話なのかもなあ、と。また、このような物語をいっさい音楽を使用せずに語っておきながら、エンドロールにおいてはこともあろうかルーマニアの(?)歌謡曲を流してしまう。この映画を見る限りクリスティアン・ムンジウという監督が娯楽映画作家としての立派な腕を持っていることは明らかだが、同時に少々ひねくれたユモリストでもあるようだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)Sigenoriyuki 赤い戦車[*] ぽんしゅう[*] Keita[*] のこのこ shiono[*]

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