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[コメント] ドイツ零年(1948/伊=独)

端的に行動のみを描いた力強い画面の連鎖が、混沌を混沌として浮かび上がらせる(少年が理解できないものは観客も理解できない)。凄いカメラ。凄い照明感覚。そして再現不可能のロケーション(こんな「オープンセット」は誰にも作れない!)。これもまた奇跡の映画と呼ぶにふさわしい。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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全ショットが驚きに溢れていると云っても決して云い過ぎではない。ロッセリーニはいかにすれば画面に力(すなわち驚き)を与えられるかをよく知っているのだ。たとえば地下鉄や夜間シーンの照明はどうだ。とりわけ夜の闇の深さ。こんな暗闇の中を少年は彷徨せねばならないのだ! また、その地下鉄やラストショットにおける路面電車のフレームインの仕方。あるいは少年を追うカメラの空間把握それ自体。ロベール・ジュイヤールも凄い仕事を見せている。そして少年のビルからの落下ぶりの衝撃的なことときたら。ヒッチコックめまい』・黒沢清回路』に匹敵する恐るべき人体落下だ。

ロッセリーニはいったいどのような想いでこの映画を作っていたのだろう。戦争(敗戦)が彼に「この物語」を語らしめた。廃墟群が彼に「この画面」を撮らしめた。だから映画作家としての彼はある種の苦い幸福を覚えずにはいられなかったのではないだろうか。こんなに悲惨な現実からこんなにすばらしい映画が生まれる。それは観客である私にとっても苦い、引き裂かれた幸福だ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)赤い戦車[*]

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