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[コメント] 2012(2009/米)

手垢にまみれた枠組み内で展開される大雑把なドラマ演出に今更ながら呆れる。が、私はこの映画に感動してみたい。破壊と混乱の超巨大細密画。コンピュータ・グラフィクスだろうが何だろうがとりわけ前半部、市街壊滅シーンにおける想像を遥かに超えたディザスタ・スペクタクル連打には驚愕してしまう。
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**ネタバレ注意**
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この映画の破壊描写で何が恐ろしいかと云えば、それは端的に「落下」だろう。落下の演出においてこの映画は優れている。トム・マッカーシーの操縦する小型飛行機は高層ビルディングよりも低い高度で市街地の上を飛ぶが、その眼下では無数の自動車が地面の裂け目に吸い込まれるように落ちてゆく。ビルディングは崩落し、電車さえも宙を舞って落下する。「映画」は幾度となく終末的光景をスクリーンに映し出してきたが、それをこれほど「奈落」の恐ろしさとして提示し、またそれに成功した作品はそうないはずだ。

この映画について前半部より後半部を評価する観客は、おそらくごく少数だろう。第一にそれは後半部にあってエメリッヒの劇の手綱さばきのいいかげんさがいよいよ寛容な観客の許容範囲さえも越えてしまうからだろうが、私としては落下の演出が影を潜めてしまう点により大きい不満を覚える。もちろん、ロシア人富豪ズラッコ・ブリッチのお抱えパイロットジョアン・アーブがひとり操縦席に残った飛行機の断崖からの滑落や、そのブリッチをはじめとした方舟に乗船を拒まれた人々の連続落下など、ハリウッド・ブロックバスター映画にのみ許された陶酔的に残酷なスペクタクルを形成している場面もある。しかし、この後半部は「船」という乗り物を選択した時点で「落下」から距離を置くことを余儀なくされている。云うまでもなく、水上の乗り物たる船は「沈没」こそすれど、決して落下はしないのだ。思い返せば、前半部の恐怖と興奮を支えていたものとは落下の危険性によって特徴づけられる乗り物の「飛行機」だったはずだ(平生であれば落下とは無縁のはずの乗り物「自動車」もまた、既に述べたようにここでは地面なり架橋なりの崩壊によって落下の危険に晒されます)。方舟と大津波/エベレスト岩壁の「衝突」を「落下」に代わるサスペンスの対象として設定するなど、演出家も決して無策を誇っているわけではない。だが、たとえそこでのタイムリミット演出の大特売ぶりに呆れを通り越した感嘆を覚えることが可能であったとしても、その「衝突」が「落下」以上の恐怖を獲得する瞬間はついぞ訪れない。

キャラクタについても少々。複数の場で同時的に進行し、多くのキャラクタが登場する物語にあって、突出も埋没もしないジョン・キューザックは主人公として適当だ。脇役の見せ方にも配慮があって好感を持てる(主人公チームとロシアチームが飛行機に同乗するあたりが特にいい)。ただし、マッカーシーにしてもアーブやブリッチにしても、あるいはイエロー・ストーンの男ウディ・ハレルソンにしても、キャラクタに厚みが生まれてきたかと思った途端に退場させられてしまうというのは(一面では常套の手段とも云えるが)やはり意地が悪い。

 サングラス姿のキューザックはジョー・ストラマーと瓜ふたつ。

(評価:★4)

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