[コメント] 告白(2010/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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野暮な行いだとは思うけれども、物語の水準における最も腹立たしい欠陥を挙げるとするならば、それはこの松たか子が復讐者ではないという点だ。松は復讐者に失格している。「少年AおよびBは殺人を犯しているにもかかわらず法はこれを処罰しない。よって私が処罰する」というようなことを彼女は云うが、まずこれが偽である。法の代行が目的であるならば、法のように粛々と彼らを処罰すればよい。その処罰は極刑に相当するものでなくてはならないと判断したならば、やはり粛々と彼らの命を奪えばよい。しかし松はそうしない。松は彼ら(とりわけ西井幸人)の苦痛を延々と引き延ばし、ひたすらにその最大化を目指す。彼女はそれを愉しんでいる(そのさまはラスト・シークェンスにおける電話での口ぶりに最も露骨にあらわれる)。復讐は復讐者にとって苦しみでしかない、何も生まない――そんなことは百も承知でありながら、それでもなお是が非でもやり遂げねばならぬ引き裂かれた行為、それこそが「復讐」であると、イーサン・エドワーズやウィリアム・マニーの苛烈な顔面は私たちに示していなかったか。西井や藤原薫や木村佳乃に苦しみを与えても、松にその苦しみが跳ね返ってくることはない(橋本愛と会話をするファミリーレストラン・シーンで松の苦しみが描かれていると見る向きもあるだろうか。が、私はそう思わない)。だから松は復讐者ではない。加虐趣味の変態である。変態の性行が描かれているにすぎないのだから、これがエンタメとして成り立つのも道理であり、また容易なことである。もちろん、そのような人物が主人公を務めようと別に構わないし、たとえその人物が断罪されなくとも、あるいは肯定的に描かれようとも、そのこと自体に異を唱えるつもりはない。しかしながら「理不尽に我が子を殺される」という、世にこれ以上のものはないだろう悲劇を背負わされた人物をたかが加虐趣味の変態に仕立て上げ、「どう、面白いでしょ?」と恬然としていられる神経の具合を私は怪しむ。
本当にこれが「復讐(者)」の映画であるのならば、こんなにつまらないはずがない。
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