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[コメント] ソルト(2010/米)

アンジェリーナ・ジョリーの超人オリンピック。アクションシーンの手ブレ撮影に「ロバート・エルスウィットにこんなことやらせるなよ」と拒否反応が出かかるが、よく見ればどのカットもとても丹念に撮られている。相変わらず性的すぎるジョリーさんの無心理アクション釣瓶打ちを存分に堪能する。
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**ネタバレ注意**
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アクション設計に投入されたアイデア量が膨大で、それを資本にして「そんな馬鹿な!」をとめどなく現出させつづける演出の持久力がまた凄い。たとえば、ダイナマイトを即席製造しての強行脱出。連続トラック・ダイヴィング。床ごと破壊して露大統領を引きずり下ろす強引暗殺。そして終盤、ジョリーが手錠の鎖を用いてリーヴ・シュレイバーの頸をキャメル・クラッチ的にへし折るに至って、私は決定的に感動する。「無心理アクション」と云ったが、それはそのアクションが何らかの心理に基づいたものではないという意味だ。心理なるものがあるとして、「映画」においてそれはあくまでもアクションそのものから遡及的に浮かび上がってくる性質のものである(したがって「メソッド演技」というものは―仮に現実的であったとしても―本質的に映画的な何かではありません。ただし、だからと云ってそれが端的にすべて駄目かというとそうではない、というのが映画のむつかしいところです)。ジョリーが繰り出すアクロバティックな殺害方法そのものによって、はじめてシュレイバーに対する彼女の殺意の激しさが明らかになる。ジョリーの心理が焦点となる物語(「彼女は露のスパイなのか? それとも米のスパイなのか? 真の目的は何なのか?」)を持つこの映画は、このようにして「映画」における心理とアクションの関係を追究している。

またこれは、云うまでもなく、ジョリーの外見を変貌させつづける映画でもある。元々はトム・クルーズ主演のスパイ・アクションとして構想されたという話も聞くが、フィルムの視覚的な見地から云えば、むしろこの物語はジョリーに百面相をさせるためにでっち上げられたものだと云ったほうが適当である。ジョリーを変貌させるために映画は転がり、ジョリーが変貌することによってまた映画が転がっていく。ノンストップのフィルム運動、その動力源はジョリーの外見である。その意味において『ソルト』は正しく被写体本位の映画だと云ってよい。

しかしそうは云っても、私はこれをフィリップ・ノイスの演出が勝利した映画だとは思わない。どうしても「勝利」という語を用いるのならば、『チェンジリング』の主演を務めた現代映画界最重要女優ジョリーをここに連れてきたという「企画」を主語に据えるべきだろう。だがそれでもこの映画はすこぶる面白い。もう、すこぶる面白いだけの映画である。「映画」とはかくも無茶苦茶なものなのだ。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)Orpheus moot サイモン64[*] ぽんしゅう[*] セント[*] ペペロンチーノ[*]

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