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[コメント] トロン LEGACY(2010/米)

3D表現に関して『アバター』と対抗するもうひとつの極を形成しようという気概はある。(どちらも画面に占める実写素材の割合は極めて小さいとは云え)『アバター』がどこまでも自然の風物で構成された世界で飛翔運動を活劇の中心に据える一方、こちらは暗黒と人工光の無機質空間で疾走運動を展開する。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ヴィジュアルの作り込みに力を注いだあまりか、ディジタル世界の理屈づけについてはまるで信用ならない。そもそも、どうしてディジタル世界に我々の現実世界と同じ時間・空間概念が適用されているのか(まあ、そうじゃないとアクション映画が成り立たないからですが)。もちろん私は微細な事柄に至るまでの理屈づけを欲してはいないし、懇切丁寧な説明などなおのこと不要だ。しかし専門用語や造語の頓珍漢な使用で観客を煙に巻いて事足れりとするのは、上等のアメリカ映画が取るべき方法ではない。理屈にとらわれている暇を観客に与えない力強い画面展開で有無を云わさずアクション映画を始動させること。ここで求められるのはそれだ。一言で云えば、『トロン:レガシー』の語りは脆弱である(さて、リチャード・フライシャーならどうしたか)。

アクションについて。『アビエイター』においてレオナルド・ディカプリオ扮するハワード・ヒューズが正しく指摘していたように、比較対象物としての背景がなければ「速度」の表現は成立しない。抽象空間のデザインはそれなりに洗練されていると云ってよいのかもしれないが、そこで繰り広げられるアクションに肉体的な活劇性は乏しい。ディジタル世界における動作の限界または制約(身体/モノがどういう動きはできて、どういう動きはできないのか)を観客に提示できていないばかりか、演出家自身もそれを決定しかねているからではないか。『マトリックス』はまだこの問題に自覚的だったはずだ。

俳優について。ジェフ・ブリッジスはここ数年で最も手を抜いた仕事ぶりだ。ギャレット・ヘドランドは不味くないが、わけも分からぬまま命懸けの事態に巻き込まれるあたりのリアクション芝居で笑いを誘えていたらなおよい。オリヴィア・ワイルドはクールビューティを気取るのかと思いきや屈託なく笑うしよく喋る。可愛らしい。マイケル・シーンデヴィッド・ボウイを三〇倍ダサくしたような男を演じている。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)DSCH Lostie[*] HW[*] disjunctive[*] Orpheus

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