コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ザ・タウン(2010/米)

スコセッシのギャングスタ映画でもあり『現金に体を張れ』でもありといったところに、高密度のアクション・シークェンスとレベッカ・ホールの存在が独自色を加えている。主演俳優としての自身にこの潔癖なキャラクタをあてがう演出家ベン・アフレックは厚かましいが、そのナルシシズムが却って頼もしい。
3819695

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







もちろん大いに既視感を覚えるジャンル映画の一品に過ぎないとも云えるけれども、この類の映画にあってここまでじっくりと女性を演出した(また、それに成功した)作品はそう思い当たらない。とは云え、むしろここでもホールのキャラクタを彫琢するための演出に費やされた時間・手数そのものは決して多くはない。それでも、たとえば、目隠しをされて怯えながら水際へ歩を進めるカットの残酷で詩的なイメージや洗濯物に付着した血痕といった細部が、彼女の存在論的な「震え」とでも云うべきものを繊細に写し取って私たちに鮮烈な印象を残す。

ジェレミー・レナーはスコセッシ映画におけるジョー・ペシに対して云うのと同じ意味で「儲け役」だが、ピート・ポスルスウェイトブレイク・ライヴリーにもきっちりと見せ場を与えてゆく演出家の手つきは如才ない。それだけにアフレックとレナー以外の強盗団二名(オーウェン・バークスレイン)が文字通り「その他二名」扱いで終わってしまうのは、「勝ち目のない銃撃戦になだれ込む四人組」というシチュエーションに『ワイルドバンチ』を期待したわけではないにしても少し寂しい。レナーがひとりでそれを担ったという云い方もできるが。あるいはアフレックとホールの関係の焦点化を鮮明にするために「仲間」「家族」といった主題が浮上するのを抑えつけたと見るべきか。確かに強盗稼業から手を引きたい劇中のアフレックにとって最も重大な事柄は新天地でホールと生活をともにすることだろう。演出の濃淡はアフレックのキャラクタの関心に寄り添っている。

土地勘に基づく路地チェイスや自動小銃をメインに据えた銃撃戦も耳目を集めることだろう。実際のところ「迫力がある」というだけでも大したものなのだけれども、そこから暴力の「やるせなさ」の感覚がほのかに起ち上がってくるところに演出家アフレックの将来が期待できる。ダサいほどリアルな普段着がしゃれこうべやグロテスクな尼僧のマスクと落差を設け、FBIに包囲されることになる犯行では「救急隊員」「警官」の制服がまとわれる。このように衣裳の水準において映画の分化を図るあたりからも(それが演出の基礎であるだけに)演出家の落ち着きと視野の広さが窺える。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)ナム太郎[*] disjunctive[*] Orpheus 緑雨[*] 煽尼采 けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。