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[コメント] 大鹿村騒動記(2011/日)

可愛い人たちの映画。ワイルドであること、タフであること、マッチョであること、それらを自らに課すかのような原田芳雄の振舞い、しかしその表面から透けて見えるのは繊細な優しさとピュアーな幼児性だ。この掛値なしの可愛げの源泉を演技技術ではなく人格に求めるのは、今や感傷的すぎる行いだろうか。
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ただし、可愛い人たちの映画、と云うからには、ことは原田に限らない。大楠道代岸部一徳石橋蓮司小倉一郎でんでん。むろん、たとえば、女を奪い、奪われた男たち(年金世代)が「ちゃん」付けで呼び合うことの可愛げは脚本家が想定したものである。脚本に書き込まれたそれは、あざといとしか云いようがないものだ。演出家と被写体たちの瞬間的な労働の積み重ねによって息を吹き込まれたとき、初めてそれは可愛げとして私たちに肯定される。映画を映画たらしめる魔法はあくまでも撮影現場にある――と信じている私はなるほど保守的な考えの持ち主かもしれない(ややもするとエイゼンシュテイン以上に「古い」!)。しかし、そのような啓示を与えてくれたのは誰だったかと振り返ったとき、浮かび上がってくる固有名詞たちのうちには阪本順治と、そして原田芳雄の名が含まれている。

確かにこれは余白の多い映画だろう(上映時間はわずか九三分だ)。だがその余白は観客が埋めるべく残されたものだ。スタッフもキャストも一生懸命であったことは云うまでもなく、予算的に恵まれていたわけでないことも明白である。それでもこれは余裕たっぷりの「大人」の映画だ。佐藤浩市松たか子瑛太をこのようなポジションで見ることができる贅沢も噛み締めたい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)おーい粗茶[*] tredair ぽんしゅう[*]

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