コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] トータル・バラライカ・ショー(1993/フィンランド)

フィンランドと旧ソ連の関係性については「冷戦下の東西の境界を成していた」といった程度の通り一遍(以下)の知識しか持たない私だが、それでもこの映画は感動的だと云い切ることができる。
3819695

ステージ上のパフォーマーにしても客席のオーディエンスにしても、その数が多すぎる。二百人近いパフォーマーと七万人のオーディエンス。私はまず、この数の過剰に目頭が熱くなってしまった。

また、ここには様式美とそれを突き抜けたものがもたらす感動がある。ロック・ミュージック自体がそもそも様式性の高い音楽ジャンルなのだが、レニングラード・カウボーイズはその様式美をとことん追求したバンドである。そして旧ソ連の退役軍人音楽隊であるアレクサンドロフ・レッド・アーミー・アンサンブルもまた非常に様式性の高い集団だ(人間がつくりだした集団の中で、最も様式を必要とするのが「軍隊」であることは云うまでもないだろう)。それぞれ異なる様式美を極めたこのふたつの集団がひとつの楽曲を演奏するとき、そこには予想もしなかった感動が生まれる。たとえばタートルズの「ハッピー・トゥギャザー」をアンサンブルの歌手が朗々たるバリトンで歌い上げるとき、確かにその歌声は場違いに響く。笑えもする。だが同時に、私は流れる涙を止めることができなかった。フィンランドと旧ソ連の関係についてほとんど知識を持たない私は、このジョイント・コンサートの歴史的意義をじゅうぶんに知識的に理解してはいないだろう。しかし、ふたつの様式美の衝突が生み出したパフォーマンスは、それを視覚的聴覚的な仕方で私に叩きつけ、感動させた。すなわち、これは映画的な感動に他ならないのだ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。