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[コメント] ランゴ(2011/米)

ファンタスティックMr.FOX』のような天才にのみ可能な業績と較べればさすがに分が悪いとは云え、これを一九二〇年代以来のアメリカ映画の一伝統「小動物アニメーション活劇」の最新形と呼ぶことにさほど躊躇は覚えない。ゴア・ヴァービンスキーのアクション設計にはやはり見るべきところがある。
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**ネタバレ注意**
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もはや本場の米国においても、西部劇とはマカロニを通過したものとしてしかありえないということだろうか。ここでティモシー・オリファントが声を当てる「西部の精霊」は明らかにセルジオ・レオーネ作品中のクリント・イーストウッドをモデルにしている。ジョン・ウェインでもなければゲイリー・クーパージェームズ・スチュアートでもない。当然ながらリチャード・ウィドマークランドルフ・スコットジョエル・マックリーグレン・フォードといった面々でもなく、ブラウン管の中に生まれてイタリアで育った西部劇スター・イーストウッドが今では西部劇の象徴として君臨している。そして、ここでは(史的に捉えれば、おそらく多分にイーストウッドが強化したのであろうところの)西部劇における主人公の典型的性質「正体不明」を逆手にとって、現代的にナイーヴな「自己の探求/定義/実現」をめぐる物語が展開される。あるいは、主人公ランゴの「弱さ」こそが彼および作品そのものの原動力になっていると云ってもよいだろう。西部劇を生きるのではなく、西部劇に憧れるだけだったランゴが、そのフィクション性を誤魔化さずに自覚し、受け容れ、西部劇に立ち向かう。その意味でランゴは純-西部劇におけるイーストウッドからは遠く離れ、むしろ『ブロンコ・ビリー』のイーストウッドに接近したキャラクタである。

ヴァービンスキーらしく奔放で多岐にわたるアングルで設計されたアクション・シーンは、ともすると彼の実写作品以上に素直に活劇的興奮を手に入れている。カッティング(カット間に流れる時間の微調整)によってではなく、あくまでもワンカット内のアクションの展開によって速度感をもたらすことが目指されている。我が国では同日公開となった『カウボーイ&エイリアン』と共有する「西部劇的風景における空中戦」は『ヒックとドラゴン』か『アバター』か、それとも『スターウォーズ』か。ともあれ演出の勘どころが「地対空」すなわち地上と空中の運動の対比にあることを忘れていない点で満足度は高い。

ランゴのデザインについては、左右の眼のサイズが著しく異なるというところが斬新だ。完全に脇役顔である。

(評価:★4)

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