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[コメント] さよなら渓谷(2013/日)

いずこに居を構えても先天的に田舎者である私にとって「東京」という語が喚起するのはもっぱら「コンクリート・ジャングル」「眠らない街」「東京砂漠」「TOKIO」的な風景なのだけれども、それを裏切る渓谷のロケーションがまずよいし、「二人が流れ着いた地も結局は東京」というのもまた象徴的だ。
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**ネタバレ注意**
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見終えてから思い返すと隣家の子殺し全然関係ないやんなど釈然としない箇所も少なくないのはミステリの体裁を保つための代償だが、芝居と撮影は優れた集中力を発揮して上映中に興が削がれる時間は訪れない。とは云い条、やはり過去の出来事をシーンとして実際に画面上に繰り広げてしまう構成には功罪半ばするところがあって、というのは第三者(=大森南朋)が採集した客観的事実の断片群を提示するに留めた場合よりも、真木よう子大西信満の来し方行く末にまつわるディテイルに対する観客の想像力を削弱してしまうからだ。

粗削りの素材で勝負する役者だった大西が実に繊細な演技を披露するのには目を細めるが、特筆すべきはやはり彼の存在そのものの在りようだろう。スーツ姿がてんでサマになっておらず、以前は将来を嘱望された野球選手だと云われてもまるでそうは見えない。置きどころなく身を持て余し、どこにいても、何をしても、滲み出る違和感を隠すことができない。大西に「自分本来の居場所」などという概念は適用されない。そして彼自身はそんなことの諦めはとうにつけているのか、至ってナチュラルに振舞っている。という風情が『赤目四十八瀧心中未遂』と並んで最もよく顕わだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)緑雨[*] けにろん[*]

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